GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『十万石の怪談』
現代語化
「もうただただ、すごいの一言です。山の頂上から転げ落ちてくる大岩を自分の体だけで支えようとするようなものです。手を添えて突き落とすのは子供でもできるけど、それを支えて食い止めようとするのは、命がけの覚悟がないとできません。すごいです。感動すら覚えます」
「そうだろう。そうだろう。俺もそれを言いたかったんだ。勤王とか大義とか尊王とかっていい言葉で隠れて天下泥棒をやるやつはいくらでもいる。――それが腹立たしい! 腹が立つからこそ容保殿に餞別代わりに会津への援兵を出したんだ。何が悪い?」
「そうですよ。家中の若侍たちはもうみんな、今日か明日かと会津への援兵を待ってるのに、年寄りたちはのんびりしすぎです」
「そうだ。ああでもないこうでもないと、ぐずぐず文句ばかり言ってるのが分別だっていうんだ。――その間に会津が落ちたらどうする! バカ者どもめ。降参したとしても、いずれは薩長に私されるこの十万石なんていらないよ。そんなもん欲しくない。俺が言いたいのは意地だ! 俺は武士の意地を貫きたいんだ! ――中将殿のようなすごい武将を見殺しにできるか。――バカ者どもめ。やっぱり年寄りはイライラするな」
原文 (会話文抽出)
「いっそもう野武士になりたい位じゃ。十万石がうるそうなったわ。なまじ城持ちじゃ、国持ちじゃと手枷首枷があればこそ思い通りに振舞うことも出来ぬのじゃ。それにつけても肥後守は、――会津中将は、葵御一門切っての天晴れな公達よ喃! 御三家ですらもが薩長の鼻息窺うて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。さるを三十になるやならずの若いおん身で若松城が石一つになるまでも戦い抜こうと言う御心意気は、思うだに颯爽として胸がすくわ。のう! 林田! そち達はどう思うぞ」
「只々もう御勇ましさ、水際立って御見事というよりほかに言いようが厶りませぬ。山の頂きからまろび落ちる大岩を身一つで支えようとするようなもので厶ります。手を添えて突き落すは三つ児でも出発る業で厶りまするが、これを支え、喰い止めようとするは大丈夫の御覚悟持ったお方でのうてはなかなかに真似も出来ませぬ。壮烈と申しますか、悲壮と申しますか、いっそ御覚悟の程が涙ぐましい位で厶ります」
「そうぞ。そうぞ。この長国もそれを言うのじゃ。勤王じゃ、大義じゃ、尊王じゃと美名にかくれての天下泥棒ならば誰でもするわ。――それが憎い! 憎ければこそ容保候へせめてもの餞別しようと、会津への援兵申し付けたのにどこが悪いぞ。のう永井! 石川! 年はとりたくないものよな」
「御意に厶ります。手前共は言うまでもないこと、家中の者でも若侍達はひとり残らず、今日かあすかと会津への援兵待ち焦れておりますのに御老人達はよくよく気の永い事で厶ります」
「そうよ。ああでもない。こうでもないと、うじうじこねくり廻しておるのが分別じゃと言うわ。――そのまに会津が落城致せば何とするぞ! たわけ者達めがっ。恭順の意とやらを表したとてもいずれは薩長共に私されるこの十万石じゃ。ほしゅうないわっ。いいや、意気地が立てたい! 長国は只武士の意気地を貫きたいのじゃ! ――中将程の天晴れ武将を何とて見殺しなるものかっ。――たわけ者達めがっ。のう! 如何ぞ。老人という奴はよくよくじれったい奴等よのう!」