芥川龍之介 『三右衛門の罪』 「その面は?」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『三右衛門の罪』

現代語化

「その面は?」
「その面は見事に取られました。これは誰の目にも疑いのない多門の勝ちです。数馬はこの面を取られたあと、だんだん焦り始めました。私は焦る数馬を見て、今度こそはぜひ数馬に扇を挙げたいと思いました。でもそう思えば思うほど、実際扇を挙げるのが躊躇われるんです。二人はまたしばらく、7、8合打ち合いました。そのうち数馬はどう思ったか、多門に体当たりを試みました。どう思ったかと言いますのは、普段数馬は体当たりなんて絶対にしないからです。私ははっとしました。はっとしたのも当然です。多門は体を開くや否や、見事にまた面を取りました。この最後の勝負ほどあっけないものはありません。私はつい3度とも多門に扇を挙げてしまいました。――私の偏りっていうのはこういうことです。これは心の秤から見れば、ほんの少し錘を加えた程度のちょっとした狂いなのかもしれません。でも数馬はこの偏りのせいで大事な試合を台無しにしました。私は数馬が私を恨んだのも、今はなんとか理解できるような気がします」
「じゃあお前の斬り払ったときに数馬だとわかったのは?」
「はっきりとはわかりません。でも今考えれば、私はどこか心の底で数馬に申し訳ないという気持ちがあったのかもしれません。それで一瞬で暴漢が数馬だとわかったのかもしれません」
「するとお前は数馬の最期を気の毒に思ってるのか?」
「そうです。それにさっきも言った通り、たった1人の役に立つ武士がむざむざ命を失ったことは、何よりも上に対して申し訳ないと思っています」

原文 (会話文抽出)

「その面は?」
「その面は見事にとられました。これだけは誰の目にも疑いのない多門の勝でございまする。数馬はこの面を取られた後、だんだんあせりはじめました。わたくしはあせるのを見るにつけても、今度こそはぜひとも数馬へ扇を挙げたいと思いました。しかしそう思えば思うほど、実は扇を挙げることをためらうようになるのでございまする。二人は今度もしばらくの後、七八合ばかり打ち合いました。その内に数馬はどう思ったか、多門へ体当りを試みました。どう思ったかと申しますのは日頃数馬は体当りなどは決して致さぬゆえでございまする。わたくしははっと思いました。またはっと思ったのも当然のことでございました。多門は体を開いたと思うと、見事にもう一度面を取りました。この最後の勝負ほど、呆気なかったものはございませぬ。わたくしはとうとう三度とも多門へ扇を挙げてしまいました。――わたくしの依怙と申すのはこう云うことでございまする。これは心の秤から見れば、云わば一毫を加えたほどの吊合いの狂いかもわかりませぬ。けれども数馬はこの依怙のために大事の試合を仕損じました。わたくしは数馬の怨んだのも、今はどうやら不思議のない成行だったように思って居りまする。」
「じゃがそちの斬り払った時に数馬と申すことを悟ったのは?」
「それははっきりとはわかりませぬ。しかし今考えますると、わたくしはどこか心の底に数馬に済まぬと申す気もちを持って居ったかとも思いまする。それゆえたちまち狼藉者を数馬と悟ったかとも思いまする。」
「するとそちは数馬の最後を気の毒に思うて居るのじゃな?」
「さようでございまする。且はまた先刻も申した通り、一かどの御用も勤まる侍にむざと命を殞させたのは、何よりも上へ対し奉り、申し訣のないことと思って居りまする。」


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