芥川龍之介 『路上』 「中位。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『路上』

現代語化

「中位」
「中位はいいなぁ。大人たちもそう思っていれば、一生幸せに暮らせるはずなのに。これは初子さんとかは特に感銘を受けるべきことでしょう。辰子さんは大丈夫だけど――」
「何を言ってもいいわ。今日は野村さん私ばかりいじめるわね」
「じゃあ僕はどうだ」
「あなたもダメよ。あなたは中位を自負できない人よ。――いや、あなただけじゃない。最近の者は、みんな中位で満足できない人ばかりよ。だから結果的に、主観的になる。主観的になるということは、結局は自分だけでなく他人も不幸にするっていうことよ。だから気をつけなくちゃいけないのよ」
「じゃああなたは中位派なの?」
「もちろんよ。そうでなければ、こんなにも泰然としていられるわけがないもの」
「でもね、主観的になるということは、自分だけが不幸になるってことじゃない。他人も不幸にすることでしょう?そうするとどれほど中位派だったとしても、世の中の人が主観的だったら、やっぱり不安でしょう?だからあなたみたいに泰然としていられるためには、中位派である以上、主観的でない世の中を――少なくとも、あなたを取り巻く人たちが主観的でないことを信じないといけないんじゃないかしら」
「それはまあ信じてるよ。だけど、君は信じたところで――ちょっと待った。いったい君は全く人間を当てにしていないのか」

原文 (会話文抽出)

「中位。」
「中位は好かった。大人もそう思ってさえいれば、一生幸福に暮せるのに相違ない。こりゃ初子さんなんぞは殊に拳々服膺すべき事かも知れませんぜ。辰子さんの方は大丈夫だが――」
「何とでもおっしゃい。今夜は野村さん私ばかりいじめるわね。」
「じゃ僕はどうだ。」
「君もいかん。君は中位を以て自任出来ない男だ。――いや、君ばかりじゃない。近代の人間と云うやつは、皆中位で満足出来ない連中だ。そこで勢い、主我的になる。主我的になると云う事は、他人ばかり不幸にすると云う事じゃない。自分までも不幸にすると云う事だ。だから用心しなくっちゃいけない。」
「じゃ君は中位派か。」
「勿論さ。さもなけりゃ、とてもこんな泰然としちゃいられはしない。」
「だがね、主我的になると云う事は、自分ばかり不幸にする事じゃない。他人までも不幸にする事だ。だろう。そうするといくら中位派でも、世の中の人間が主我的だったら、やっぱり不安だろうじゃないか。だから君のように泰然としていられるためには、中位派たる以上に、主我的でない世の中を――でなくとも、先ず主我的でない君の周囲を信用しなけりゃならないと云う事になる。」
「そりゃまあ信用しているさ。が、君は信用した上でも――待った。一体君は全然人間を当てにしていないのか。」


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