小栗虫太郎 『人外魔境』 「人が、せっかくお前さんを助けてやったのに…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 小栗虫太郎 『人外魔境』

現代語化

「助けようとしてくれた人を、ぶん殴るなんて……ちょっと怖い目に遭って、落ち着くといい。お前は、ルチアノの『フラム』号をどう思ってるんだ」
「おい、離せよ」
「実は、あのロングウェルとルチアノは兄弟なんだよ。そもそも、アメリカってそんなところで、善悪も敵同士もビジネスになれば、それまでの因縁なんてどうでもいいんだ。で、クルトが全部をロングウェルにしゃべった。お前には言わなかっただろうけど、鯨狼が捕まった場所を、ロングウェルは経度まで知ってる。すると、海獣が陸地の中にいる。怪しい。それに、ミュンツァ博士のあの無線があるだろ。もしかしたら、海峡みたいのがずっと内陸まで続いているんじゃないか、──ロングウェルはこう考えたんだ。 でも、こんな奥地に行けるやつは、お前のほかにいないだろ。こいつをうまく利用して、用が済んだら殺す。それが腹黒検事の作戦なんだ。だから、自分を隠すためにルチアノを使って、全部をギャングの仕業に見せかけたんだ。ケプナラも、フードを脱げばロングウェルの部下。へへ、お友達がかわいそうだね」
「でも、どうしてそれを知ってるんだ」
「盗み聞きだよ。お前の曲芸団に来る前にケプナラが来て、親方とコソコソ話してた。うちの親方だって、ユダヤ仲間だから」
「そもそも、ユダヤ人ってどうしたっていうんだ」
「あの、『シオン議定書』とかにある、ユダヤ国家の設立だよ。こんな氷の島じゃ何にもならないだろうけど、とにかく、長い間計画されてきたユダヤ国家が建国される。そのためのロングウェルの計画にお前がまんまと乗せられたわけよ。馬鹿、俺がいなかったら、どうなってたと思う。とっくに、ニューヨークで密告されてただろうよ。第一、お前は俺が嫌いだろう」

原文 (会話文抽出)

「人が、せっかくお前さんを助けてやったのに、引っ叩くなんて……しばらく恐い思いをして、頭を冷ますがいい。お前さんは、ルチアノの『フラム』号をどう思っているね」
「オイ、上げろよ」
「じつを話すと、あのロングウェルとルチアノは同腹なんだよ。一体、アメリカというのがそんなところで、正邪も仇同志も一度実業となれば、それまでの行き掛りなんぞは、何でもなくなってしまうんだ。で、クルトがすべてをロングウェルに話したね。お前さんには言わなかったろうが鯨狼が捕われた位置を、ロングウェルは経度まで知っている。すると、海獣が遠い陸地のなかにいる。可怪しい。それに、ミュンツァ博士のあの無電があるだろう。ことによったら、海峡みたいのものがズウッと内地へ伸びているんじゃないか、──ロングウェルはこう考えたんだ。 しかし、こんな奥地へ行けるものといや、お前さんのほか誰があるだろう。こいつを一番利用してやって、事成就の暁には殺ってしまおう。というのが腹黒検事の考えさ。だから、じぶんを隠すためにルチアノを使って、すべてをギャングの仕業らしく見せかけたわけだ。ケプナラも、頭巾をとりゃロングウェルの腹心。へん、ご親友がお気の毒さまだったね」
「だが、どうして君は、それを知ったんだ」
「立ち聴きさ。あんたが、曲馬団にくるまえケプナラがやってきて、親方とひそひそ話をやっていた。うちの親方だって、猶太仲間だから」
「いったい、猶太人がどうしたというんだ」
「あの、ツイオン議定書とかにある、猶太建国さ。こんな氷の島だから何にもなるまいけれど、とにかく、ながい懸案だった猶太国ができあがる。そのため書いたロングウェルの筋書に、うかうかお前さんが乗っちまったというわけさ。馬鹿、私がいなかったら、どうなったと思う。とうに、ニューヨークにいるうち打ち明けようと思ったけれど、私の言うことなんぞは信用しまいと思ったし……。第一、お前さんは私が嫌いだろう」


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