GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 小栗虫太郎 『人外魔境』
現代語化
「折竹さん、あなたは5年ほど前に北極探検用として、潜水客船というのを考えたミュンツァ博士を知ってますか」
「知ってます。じゃ、同じミュンツァというと、あなたは？」
「あの、アドルフ・ミュンツァは俺の親父です」
「親父は、ご存知の通り造船工学の専門家だったんだけど、極地の大きな氷原を氷の甲板にして、そこに新しいドイツ領を作ろうって、夢に燃えてたんですよ。新極北島──と、親父は氷原の上の都市をこう呼んでいましたよ。そしたら、すぐに1隻を自腹で作り上げて、1933年には北極海に向かいました。俺は、体質上潜行に適さないんで、捕鯨船の古物である帆船に乗って『ネモ号』って潜船に付いていったんですよ。すると、運悪く半月以上の嵐。無線も壊れ散々な目に遭った挙句、『ネモ号』を見失って1ヶ月以上漂流。やっとグリーンランド北東岸の“Koldewey”島の湾に流れ着いて、通りがかる船を待ってました」
「その間、ネモ号は」
「そもそも、無線が壊れてるんで、さっぱり消息が分かりません。そしたら、そこへ運良く1隻の捕鯨船が通りかかって、俺は無線の修理部品をもらいました。修理が終わった、と、それから3日ばかり経った夜、偶然、ネモ号の通信をキャッチしたんです。想像してください。真っ暗な夜に蒼白いランプみたいな太陽の下で親父の通信だって分かったときの、俺の喜び。でも、でもだったんです」
「じゃ、その通信には何てありましたか」
原文 (会話文抽出)
「ああ、来てくだすったですね。いろいろ、ご都合もあろうし、駈け違ったことと思っていましたが」
「折竹さん、あなたは五年ほどまえ北極探検用として、潜水客船というのを考案したミュンツァ博士をご存知ですか」
「知っています。じゃ、おなじミュンツァとなると、あなたは？」
「あの、アドルフ・ミュンツァは僕の父です」
「父は、ご存知のとおりの造船工学家でしたが、極地の大氷原を氷甲板として、そこに新ドイツ領をつくろうという、夢想に燃えていたのです。新極北島──と、父は氷原上の都市をこう呼んでいましたよ。ところが、まもなく一隻を自費でつくりあげ、一九三三年には極洋へむかいました。僕は、体質上潜行に適しないので、捕鯨船の古物である一帆船にのって『ネモ号』というその潜船に蹤いていったのです。すると、運の悪いことには半月あまりの暴風雨。無電はこわれ散々な目に逢ったのち、『ネモ号』を見失って漂流一月あまり。やっとグリーンランド東北岸の“Koldewey”島の峡湾に流れついて、通りがかりの船を待っていました」
「その間、ネモ号は」
「なにしろ、無電が壊れているんで、サッパリ消息が分りません。すると、そこへ運よく一隻の捕鯨船が通りかかって、僕は無電の修理材料をもらいました。修理が成った、と、それから三日ばかり経った夜、偶然、ネモ号の通信をとらえたのです。ご想像ください。まるで、蒼白いランプのような真夜中の太陽のしたで父の通信と分ったときの、私の悦び。しかしでした」
「では、その通信にはなんとありましたね」
「奇怪なことです。僕は、父が気違いになったとしか思えなかった。どうです、たとえば貴方がたがこういう無電をうけたとしたら……」