岡本綺堂 『半七捕物帳』 「親分の前ですが、その時はまったく困りまし…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「親分の前で大変失礼なんですが、その時ばかりは本当に困りましたよ」
「すると、その金魚がすぐに死んだので、先生は先に申し訳がないと言っているんだね」
「でも、そもそも生き物ですから。飼い方が悪ければ死ぬこともあるし、季節のせいで死ぬこともある。金魚だって病気をするのに、それを一方的にこっちのせいにされては困ります」
「それを言ったんです」
「でも、先生はどうしても納得してくれなくて、必ず偽物に違いない。お前は普段からまやかし物ばかり持ち込んでるから、お前の言うことは当てにならないとか…」
「普段から随分怪しい物を持ってきてるんだな」
「冗談ですよ…」
「本当にあの先生は頑固で、一度こうと言ったら最後、何を言っても聞きませんから」
「それからどうした?」
「どうにもこうにもできません。でも、あの先生の家に出入りできなくなると、今後の商売にも響きますから、仕方なく謝って一度は引き下がって、とりあえず売り主の元吉にその話をすると、元吉も素直には納得しません。つまり親分が言ったのと同じようなことを言うので、私は両者の間に入って困ってしまいまして、実は今朝もそのことで先生の家に行ったんですけど、あの件で…。重ね重ね驚いているんです」
「一体その売り主の元吉ってのは何者なんだい?」
「本所の金魚屋の甥で、自分は千住に住んでます」
「そこも叔母の家で、その2階に居候してて、まあ特に決まった商売もないんですが、叔父が金魚屋なので、その流れで今回の金魚もまあ間違いはないと思ってるんです。本人も偽物じゃないって言ってますけど、私はその人が素人なので、本当のところはどうなのか分かりません。困ってます」
「元吉はいくつだ?」
「23くらいです」
「そうか。まあ、そのくらいだろうよ。じゃあ、また呼び出したらすぐに来てくれ」
「かしこまりました」

原文 (会話文抽出)

「親分の前ですが、その時はまったく困りましたよ」
「すると、その金魚がすぐに死んだので、宗匠は先方に申し訳がないと云うんだね」
「だが、もともと生き物のことだ。飼いようが悪くって死なねえとも限らねえ。時候の加減で斃ちねえとも云われねえ。金魚だって病気もする、それを一途にこっちのせいにされちゃあ困るじゃあねえか」
「それを云ったのでございますよ」
「ところが、宗匠はどうしても肯いてくれないで、なんでも贋物を売ったに相違ない。ふだんが不断だから、おまえの云うことは的にならないと……」
「不断よっぽどまやかし物を持ち込んでいるとみえるね」
「御冗談を……」
「まったくあの宗匠は一国で、一旦こうと云い出したが最後、なんと云っても承知しないんですから」
「それからどうした」
「どうにもこうにもしようがありません。といって、あの宗匠の家の出入りを止められると、これからの商売にもちっと差しさわることもありますので、よんどころなしに御無理ごもっともと一旦は引きさがって来て、とりあえず売り主の元吉にその話をしますと、元吉も素直には承知しません。つまりお前さんが仰しゃったと同じような理窟を云っているので、わたくしも両方の仲に立って困ってしまいまして、実は今朝ほどもそのことで宗匠の家へ出かけて行くとあの一件で……。かさねがさね驚いているのでございます」
「一体その売り主の元吉というのは何者だえ」
「本所の金魚屋の甥でございまして、自分は千住に住んで居ります」
「そこも自分の叔母の家で、その二階に厄介になっていて、まあこれといって決まった商売もないのですが、叔父が金魚屋で、その方の手から出たというのですから、今度の金魚もまあ間違いはないと思っているのです。当人も決していかさま物ではないと云うのですが、わたくしも何分その方は素人のことで、実のところはどっちがどうとも確かには判らないので困って居ります」
「元吉というのは幾つだ」
「二十三でございましょう」
「そうか。まあ、そのくらいでよかろう。じゃあ、また呼び出したらすぐに来てくれ」
「かしこまりました」


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