岡本綺堂 『半七捕物帳』 「急に夏らしくなりましたね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「急に夏っぽくなりましたね」
「でも今はなんでも早くなりましたよね。5月の初めにはもう稗の種を売りに来る。苗屋の呼び声も4月の終わりから聞こえてくるんですから驚きですよ。昨日も一ツ木の縁日に行ったら、金魚屋が出てました。人間の気がせっかちになってきて、みんなが競争で早く早くとあせってるんですね。私達みたいな昔の人間から見ると…。私だって昔の基準ではせっかちだったんですけどね…。やたらバタバタして、回り灯籠の追い駆けっこを見せられてるみたいですよ。この調子だと、そのうちお正月の床の間に金魚鉢を飾るようになるかもしれませんね。いや、今の人のことばかり言ってもいられません。昔も寒い時期に金魚を飼ってた人もいたんですよ」
「天水桶にでも入れてたんですか?」
「いや、天水桶の金魚は珍しくもありません。大きい天水桶なら底の方に沈んで、寒い間も耐えられますからね。今は厚いガラスの入れ物に飼って、日当たりのいい所に出しておけば、冬でも元気に生きています。でも昔はそんなことをあまり知らなかったもんですから、ガラスの入れ物に金魚を飼うなんて贅沢な人は少なかったようです。たまにあったとしても、それはやっぱり夏場だけのことでした。でも、いろいろと考えてる人間がいるもんで、寒い時期にも金魚を売ってる奴がいるんですよ。それは湯の中で生きてる金魚だというんだから、珍しいですよね。文化文政の頃に流行って、一度すたれたものの、江戸の末期頃にまたちょっと流行ったことがあります。所詮一時的な珍しいもの好きで長くは続かないんですが、それでも流行るときにはバカみたいに高い値段でやり取りされます。例の万年青やウサギと同じで、理屈なんてありません。そうそう、その金魚にまつわるこんな話がありましたよ」

原文 (会話文抽出)

「急に夏らしくなりましたね」
「しかし此の頃はなんでも早くなりましたね。新暦の五月のはじめにもう稗蒔を売りにくる。苗屋の声も四月の末からきこえるんだから驚きますよ。ゆうべも一ツ木の御縁日に行ったら、金魚屋が出ていました。人間の気が短くなって来たから、誰も彼も競争で早く早くとあせるんですね。わたくし共のようなむかし者の眼からみると……これでも昔は気のみじかい方だったんですがね……むやみに息ぜわしくなって、まわり燈籠の追っかけっくらを見せられているようですよ。この分では今にお正月の床の間に金魚鉢でも飾るようになるかも知れませんね。いや、今の人のことばかり云っちゃあいられません。むかしも寒中に金魚をながめていた人もあったんですよ」
「天水桶にでも飼って置いたんですか」
「いや、天水桶の金魚は珍らしくもありません。大きい天水桶ならば底の方に沈んで、寒いあいだでも凌いでいられますからね。こんにちでは厚い硝子の容れ物に飼って、日あたりのいいところに出しておけば、冬でも立派に生きています。しかし昔はそんなことをよく知らないもんですから、ビードロの容れものに金魚を飼うなんて贅沢な人も少なかったようです。たまにあったところで、それはやっぱり夏場だけのことでした。ところが、又いろいろのことを考え出す人間があって、寒い時にも金魚を売るものがある。それは湯のなかで生きている金魚だというんだから、珍らしいわけですね。文化文政のころに流行って、一旦すたれて、それが又江戸の末になってちょっと流行ったことがあります。しょせんは一時の珍らしいもの好きで長くはつづかないんですが、それでも流行るときには馬鹿に高い値段で売り買いが出来る。例の万年青や兎とおなじわけで、理窟も何もあったものじゃありません。そう、そう、その金魚ではこんな話がありましたよ」


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