岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お歌はそれからどうしました」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「お歌はその後どうなりました?」
「日が暮れてから気分も良くなったみたいなので、裏山の方から帰しました。本人は素直に帰ろうとしませんでしたが、私がいろいろと説得して、今度はお前と自由に会わせてやるって約束して、無理やりなだめて帰しました。でも、そのまま済むとは思えませんでした。また戻ってきて、何か面倒なことを言い出すだろうと思っていました。そこに、また皆さんが乗り込んできたので、もう全部終わりだと思って、私も覚悟しました。智心が攻撃してきたのは、お歌を殺したことで、自分の身に後ろ暗いところがあったからでしょうね。でも、お歌はまだ生きています」
「俊乗さんが死にました」
「なぜ死んだんですか?」
「裏山の桜の木に首を吊って…」
「話はここで終わりにしましょう」
「事件自体はちょっとだけ面白いですけど、私達の捜査からすると、たいして面倒なことはありませんでした」

「ここに少し脚色を加えたら、すごく面白い小説になりそうですね」
「でも、実話って小説みたいに都合よくはいかないですからね。こうすれば面白くなるだろうと思っても、嘘を混ぜるわけにもいきませんし、ありのまま聞いてもらうしかないんです」
「いや、まだ少し言い残したことがあります。あの、お歌のことについて…」
「私もそれを聞こうと思ってたんです。お歌はその後どうなったんですか?」
「お歌がその後になんらかの活躍をすれば、小説や芝居にもなりそうなものですが、これがさっき言った通り実話なので…。お歌はその後しばらく姿を消していましたが、その翌年の5月に、チンピラみたいなことで捕まって、その後いろいろ過去の悪事が明らかになって、流刑になりました。私が捕まえたわけじゃないので詳しいことは知りませんが、お歌は懐に俊乗の数珠を持っていたそうです。相当、俊乗のことを思っていたんでしょうね。流刑といえば、高源寺の住職も流刑、他は追放で、これでこの事件は解決しました。住職も弟子たちも みんな悪い人間ではなかったんですが、いったん悪い方に行くと、もう元に戻れなくて、どんどん悪い方向に進んでしまったんです。特に俊乗なんて、良い寺にいれば、出世できたかもしれません。そう思うと、ちょっと気の毒にも感じます」
「石屋の松蔵はどうなりましたか?」
「高源寺の噂を聞くと、すぐに姿を消しました。草鞋を履いて追いかけるほどの大した悪人じゃないので、そのままにしていたら、その後で木更津の方で変死したそうです。知り合いの石屋を頼ってそこで働いていたんですけど、ある時、大きな石地蔵を作る時に、なぜか地蔵が急に倒れて、松蔵は頭を打って死んじゃったんだそうです。なんか因果話みたいで、本当かどうかは分かりませんけど、そういう噂でした。高源寺はその後、廃寺になってしまって、今は跡形もありませんが、一方の林泉寺の縛られ地蔵は昔のまま残っています。明治時代以降は堂を取り壊して雨ざらしになってますが、相変わらずお花とお線香は絶えないようです」

原文 (会話文抽出)

「お歌はそれからどうしました」
「日が暮れてから気分も快くなったと申しますので、裏山づたいに帰してやりました。本人は素直に帰ろうと申しませんでしたが、わたくしからいろいろに説得しまして、今度は俊乗にも自由に逢わせてやると約束して、無理になだめてともかくも帰しましたが、所詮このままに済もうとは思われません。また出直して何かの面倒を云い込んで来ることと覚悟して居りました。そこへお前さん方が再びお乗り込みになりましたので万事の破滅と、わたくしもいよいよ覚悟を決めました。智心がお手向いを致しましたのは、お歌を殺した一件で、我が身にうしろ暗いところがある為でござりましょう。しかしお歌は確かに生きて居ります」
「俊乗さんが死にました」
「どうして死んだ」
「裏山の桜の木に首をくくって……」
「お話は先ずここらでお仕舞いでしょう」
「事件はちょいと面白いのですが、わたくし共の捕物の方から云えば、たいして面倒な事もありませんでした」
「これに幾らかの潤色を加えると、まったく面白い小説になりそうですね」
「なにぶん実録は、小説のように都合よく行きませんからね。こうすれば面白くなるだろうと云って、まさかに嘘をまぜる訳にも行かず、まあ其のつもりで聴いて頂くよりほかありません」
「いや、まだ少し云い残したことがあります。かのお歌の一件について……」
「わたしもそれを訊こうと思っていたんです。お歌はそれからどうしました」
「さあ、お歌がそれからひと働きしてくれると、小説にも芝居にもなるのですが、そこが今申す通りの実録で……。お歌はその後しばらく姿を見せませんでしたが、その翌年の五月、詰まらない小ゆすりで挙げられて、それからいろいろの旧悪があらわれて遠島になりました。わたくしが捕ったので無いので詳しいことは知りませんが、お歌はふところに俊乗の数珠を持っていたと云いますから、よっぽど俊乗のことを思っていたに相違ありません。 遠島といえば、高源寺の住職も遠島、他は追放、これでこの一件も落着しました。住職も弟子たちもみんな悪い人間ではなかったのですが、いったん悪い方へ踏み込むと、もう抜き差しが出来なくなって、だんだん深淵に落ちて行く。取り分けて俊乗などは、いい寺にいたらば相当の出世が出来たのかも知れません。それを思うと可哀そうでもあります」
「石屋の松蔵はどうなりました」
「高源寺の噂を聞くと、こいつはすぐに影を隠しました。草鞋を穿いて追っかけるほどの兇状でもないので、まあ其のままに捨て置きましたが、あとで聞くと木更津の方で変死したそうです。同職の石屋を頼って行って、そこで働いているうちに、その石屋で大きい石地蔵をこしらえる時、どうしたわけか其の地蔵が不意に倒れて、松蔵は頭を打たれて死んだと云うのです。なんだか因縁話のようで、嘘か本当かよく判りませんが、まあそんな噂でした。 高源寺はその後、廃寺になってしまって、今では跡方もなくなりましたが、一方の林泉寺の縛られ地蔵は昔のままに残っています。明治以後は堂を取り払って、雨曝しのようになっていますが、相変らずお花やお線香は絶えないようです」


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