岡本綺堂 『半七捕物帳』 「地蔵さまに縛られていた女はお歌で、その下…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「地蔵様に縛られてた女はお歌で、その犯人をお前は知ってるんだろうね?」
「こんなことになったんだから、もう全部包み隠さず話します。お歌を絞め殺したのは智心です」
「智心は孤児で10歳の時からうちで養われてるんだけど、生まれつきの鈍感で、お経も全然覚えられない。それでも正直に働いてます。特に俊乗に懐いていて。で、智心はふだんからそのお歌を憎んでて、あいつは悪魔だ。俊乗さんを堕落させる夜叉羅刹だって言ってたんです」
「お歌を殺したのはいつのことですか?」
「23日の夜です。お歌が俊乗を裏山に誘い出すんですけど、その様子がいつもと違うので、智心もそっと後をつけたんです。そしたらお歌は俊乗を森の中に連れ込んで、お前がこの寺にいると自由に会えないんだから、いっそ還俗して私と一緒に逃げようって言うんです。もちろん、俊乗は承知しません。言い争ってるうちに、お歌はだんだんとキツくなってきて、お前が言うことを聞かなければ、私には覚悟がある。縛られ地蔵の一件をバラしたら、お前達は死刑か流刑になるぞって脅すんです。この脅しには俊乗もいつも困ってるんですけど、お歌は調子に乗って、今から訴えに行くようなそぶりを見せるんです。それをさっきから見てた智心がもう我慢できなくなって、急に飛びかかって、お歌の首を絞めました。智心に比べてお歌は体が小さかったので、智心が一生懸命に両手で絞め上げたら、そのままぐったり倒れちゃったんです」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「俊乗はお歌に迫られて、仕方なく付き合ってたんです…。実際、今夜もお歌に迫られてたんですけど、元々は心優しい人間ですから、目の前でお歌が倒れたのを見ると、急に悲しくなって泣き出したんです。でも、医者を呼ぶわけにも行かないし…。俊乗はお歌の死体を抱えて、しばらく泣いてました。智心はただ呆然と見てました。しばらくして、俊乗は智心を叱るように、お前はなんでこんなことをしたんだ、この女は殺しちゃいけない、これから私と一緒に地蔵堂に運び出せって言うんです」
「それはどういうつもりで?」

原文 (会話文抽出)

「地蔵さまに縛られていた女はお歌で、その下手人をお前さんは御承知なのでしょうね」
「こうなれば何もかも包まずに申し上げます。お歌を絞め殺したのは智心でござります」
「智心は孤児で十歳のときから当寺に養われて居りますが、生まれつきの鈍根で、経文なども能く覚えません。それでも正直に働きます。殊に俊乗によく懐いて居りました。そこで智心は平生からかのお歌を憎んで居りまして、あの女は悪魔だ。俊乗さんを堕落させる夜叉羅刹だなどと申して居りました」
「お歌を殺したのはいつの事です」
「二十三日の晩でござります。お歌が俊乗を裏山へ誘い出して行く。その様子がいつもと違っているので、智心もそっと後を尾けて行きますと、お歌は俊乗を森のなかへ連れ込みまして、お前がこの寺にいては思うように逢うことが出来ないから、いっそ還俗するつもりで私と一緒に逃げてくれと云う。勿論、俊乗は得心いたしません。かれこれと云い争っているうちに、お歌はだんだんに言葉があらくなりまして、お前がどうしても云うことを肯かなければ、わたしにも料簡がある。縛られ地蔵の一件を口外すれば、おまえ達は死罪か遠島だなどと云って嚇かすのでござります。毎度のことながら、この嚇かしには俊乗も困って居りますと、お歌はいよいよ図に乗って、これからすぐに訴えにでも行くような気色を見せます。それを先刻から窺っていた智心はもう我慢が出来なくなって、不意に飛びかかって、お歌の喉を絞めました。智心は年の割に力のある奴、それが一生懸命に両手で絞め付けたので、お歌はそのままがっくり倒れてしまいました」
「成程、そんなわけでしたか」
「俊乗はお歌に迫られて、余儀なく関係をつづけて居ったので……。現に今夜もお歌に苦しめられて居ったのですが、元来は気の弱い、心の優しい人間ですから、眼の前にお歌が倒れたのを見ますと、急に悲しくなって泣き出しました。といって、医者を呼ぶわけにも行きません。俊乗は女の死骸をかかえて、暫くは泣いていました。智心は唯ぼんやりと眺めていました。やがて俊乗は叱るように智心にむかって、お前はなぜこんな事をしたのだ、この女を殺してはならない、これから私と一緒に地蔵堂へ運んで行けと云ったそうです」
「それはどういう訳ですね」


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