岡本綺堂 『半七捕物帳』 「あれから引っ返して寺門前へ行って、食いた…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「その後、寺門前に戻って、食いたくもない蕎麦屋とか、飲みたくもない小料理屋とかに入って、いろんな情報を集めようとしたけど、思ってたような良いネタはなかった」
「で、大体どんな感じだった?」
「あいつらも賢いから、近所の人には情報を漏らしてないっぽい」
「まあ、聞き出したのはこんなもんだ」
「住職の祥慶って奴は京都のデカい寺で修行したこともあって、学問ができて、字がうまいらしい。檀家に気に入られてるし、悪い噂も特にないみたい。俊乗って坊主は男前だから、門前町の若い女にモテてるけど、今まで悪い噂が出たことはないって。これじゃみんな良いことしかなくて、どうにもならねえ。近所の人で山師坊主だとか言う奴は一人もいないよ」
「小坊主はどうだ?」
「小坊主は16歳なのに体が大きくて見かけは頑丈そうだけど、普段はボーっとしてる奴で、別に変わったこともないらしい。それから了哲って納所坊主は、ちょっと頭が足りないのか、悪いことはしないけど酒ばっかり飲んでる。まあ、そんな感じ」
「花屋の親子は…」
「花屋の定吉は、近所でも有名な誠実者だけど、吃音がひどくてろくに話せないんだって。娘のお住は親孝行で、頭もいいみたい」
「で、寺男はどうなんだ?」
「源右衛門か。こいつは善い奴なのか、悪い奴なのか、よく分かんない。とにかくすっごく偏屈で、丸3年間もあの寺に住んでるけど、近所の人とほとんど喋ったことがないくらいなんだ」
「ふーん」
「どうしようもない奴だな」
「全くどうしようもない奴らで、どうにもこうにも手が出せないよ」
「ただ一つ、こんな噂を耳にしたんだ…。1か月くらい前の話らしいんだけど、門前町の端っこに住んでる煎餅屋の奥さんが、茗荷谷の方に買い物に出かけたら、その途中で花屋のお住を見かけたんだって。お住は20歳くらいのキレイな田舎娘と一緒に歩いてたんだって」
「その田舎娘っていうのは縛られてた女か?」
「それがハッキリしないんだ…」
「煎餅屋の奥さんは、あの事件のことを聞いてから、そんなものを見るのも嫌だと思って、近所なのに様子を見に行ってないから、同じ女なのかどうか分からないって言ってたんだ。もし同じ人だったとしたら面白いんだけど…」
「同じ人だろう。いや、同じ人に違いない」
「そうかな?奥さんの話だと、お住はちょっとあばたがあるけど顔は悪くないらしい。一緒にいた娘はあばたもなくて顔も綺麗で、顔立ちが似てたから、見た感じは姉妹かと思ったらしい…」
「おい、亀。落ち着け」
「お前にも合わねえよ。こんだけ情報が揃ってるんだから、あと一歩頑張れよ。よし、よし。俺がもう一回出かけてみる」
「また行くんですか?」
「おう。お前もついてこい」

原文 (会話文抽出)

「あれから引っ返して寺門前へ行って、食いたくもねえ蕎麦屋へはいったり、飲みたくもねえ小料理屋へはいったりして、出来るだけ手を伸ばして見ましたが、思わしい掘出し物もありませんでした」
「そこで、大体どんなことだ」
「あいつらも利口だから、近所へは尻尾を出さねえかも知れねえ」
「まあ、聞き出したのはこれだけの事です」
「住職の祥慶というのは京都の大きい寺で修行したこともあって、なかなか学問も出来るし、字なんぞも能く書くそうです。檀家の気受けも好し、別に悪い評判も無いと云います。俊乗という坊主は男がいいので、門前町の若い女なんぞに騒がれているそうですが、これも今までに悪い噂を立てられた事はないと云います。これじゃあみんな好い事ずくめで、どうにもなりません。近所じゃあ山師坊主だなんて云うものは一人もありませんよ」
「小坊主はどうだ」
「小坊主は十六で年の割には体も大きく、見かけは頑丈そうですが、ふだんから薄ぼんやりした奴で、別にこうと云うほどのこともないそうです。それから了哲という納所坊主、こいつも少し足りねえ奴で、悪いこともしねえが酒を飲む。まあ、こんな事ですね」
「花屋の親子は……」
「花屋の定吉、これも近所で評判の正直者ですが、可哀そうにひどい吃で、満足に口が利けねえ位だそうです。娘のお住はなかなか親孝行で、人間も馬鹿じゃあねえと云います」
「そこで、寺男はどうだ」
「源右衛門ですか。こいつは善いか悪いか、どんな人間だか能くわからねえ。なにしろ恐ろしい偏人で、あしかけ三年、丸二年もあの寺の飯を食っていながら、近所の者と碌々に口を利いた事がねえという位で……」
「ふうむ」
「仕様のねえ奴だな」
「まったく仕様のねえ奴らで、どうにも斯うにも手の着けようがありませんよ」
「唯ひとつ、こんな事を小耳に挟んだのですが……。なんでもひと月ほど前の事だそうで、門前町のはずれに住んでいる塩煎餅屋のおかみさんが、茗荷谷の方へ用達しに出ると、その途中で花星のお住を見かけたのですが、お住は二十歳ぐらいの小綺麗な田舎娘と一緒に歩いていたそうです」
「その田舎娘というのは縛られていた女か」
「さあ、それが確かに判らねえので……」
「煎餅屋のかみさんは例の一件を聞いた時、そんなものを見るのも忌だと云って、近所でありながら覗きにも行かなかったので、同じ女かどうだか判らねえと云うのですよ。もし同じ人間なら面白いのですが……」
「同じ人間だろう。いや、同じ人間に相違ねえ」
「そうでしょうか。かみさんの話じゃあ、お住は薄あばたこそあれ、容貌は悪くねえ。連れの娘はあばたも無し、容貌もいい、顔立ちが肖ているので、ちょいと見た時には姉妹かと思った……」
「おい、亀。しっかりしてくれ」
「おめえにも似合わねえ。それだけ種が挙がっているなら、なぜもうひと息踏ん張らねえ。よし、よし。おれがもう一度出かけよう」
「出かけますかえ」
「むむ。一緒に来てくれ」


青空文庫現代語化 Home リスト