岡本綺堂 『半七捕物帳』 「この宿に釜屋という同商売があるね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「このホテルって、釜屋って同業他社あるの?」
「はい、ウチから5、6軒先です」
「ちょっと聞きたいことがあるから、釜屋の店長呼んできてよ」
「かしこまりました」
「オッス、釜屋の文右衛門っす。何かご用ですか?」
「いきなりだけど、5日前の闇祭りの夜に、お前の店の女客が1人消えたんだって?もう5日経つけど手がかりは?」
「四谷坂町の伊豆屋のおかみさんがいなくなっちゃって、ウチでも心配してんだけど、まだ何もつかめてなくて困ってんだよ。あの日は150人以上泊まってて、2階も下もパンパンだったし、火を消した真っ暗の中じゃ何が何だかわからなくて…」
「それで、その祭りの前あたりから、お前の所に若い芸人泊まってなかった?」
「いましたよ。シン吉って落語家です」
「いつ頃から?」
「シン吉さんは先月からこの辺を巡業してて、ウチでも近くの茶屋旅籠で3晩くらい寄席やってたんです。一座の5人は八王子に行ったけど、シン吉さんは体調悪いってことで1人だけ残って、先月の月末からウチの2階に泊まってました。闇祭りの日の午後には、これから他のメンバーを追いかけますって言って出ていきました」
「このホテルの端っこに住んでた友蔵って怪しい奴いるよな?そいつはどうなってんのかな?」
「友蔵は元気ですよ。これも先月の月末頃だったかな、江戸に2、3日遊びに行ったとか言ってましたが、今はもう帰ってきてて、昨日もウチの前を通ってました。博打で勝ったみたいで、女郎屋に行ってはしゃいでたとか」
「ウリ坊でも売れたか?」
「いや、まだ売れてないです。家の前に売り物の札が付いてます」
「伊豆屋の若い衆はどうした?」
「昨日までウチにいたけど、手がかりが出ないみたいで、一旦江戸に帰りました」
「じゃあ、すれ違いだったんだな」
「お前、友蔵の家知ってるだろ?あいつ今晩、家にいるかこっそり覗いてきてくれないか?」
「了解」
「友蔵を捕まえてやるかよ」
「あいつ、どうにも怪しいんだよ。先月の月末に江戸に行ったとか、金を使いまくってるって話だし、なんか裏がありそうだ」
「友蔵が家で酒飲んでるよ」
「友達でも来てるのか?」
「いや、ボサボサの中年女が酌をしてて、機嫌よく歌ってる」
「それが例の幽霊か?」
「なるほど顔色が悪いけど、幽霊じゃなさそう。それに、友蔵の娘って歳じゃなさそうだった」
「よし」
「1人にかかって3人って大げさだけど、せっかく来たんだから全員で行くか。俺はそのまま宿の草履でお前ら準備して行ってくれ」

原文 (会話文抽出)

「この宿に釜屋という同商売があるね」
「はい。手前共から五、六軒さきでございます」
「すこし訊きたいことがあるから、釜屋の亭主を呼んで来てくれ」
「はい、はい」
「手前は釜屋文右衛門でございます。なにか御用でございましょうか」
「早速だが、この五日の闇祭りの晩に、おめえの店の女客が一人消えてなくなったそうだね。きょうでもう五日になる。まだなんにも手がかりはねえのかね」
「四谷坂町の伊豆屋のおかみさんが見えなくなりまして、手前共でも心配して居るのでございますが、まだなんにも手がかりがございませんので、実に困って居ります。なにぶんにも当夜は百四五十人の泊まり客で、二階も下もいっぱいの混雑、殊に火を消した暗闇の最中で、何がどうしたのか一向に判りません」
「そこで、その祭りの前の頃から、おめえの家に若い芸人が泊まっていなかったかね」
「はい。泊まって居りました。しん吉という江戸の落語家でございます」
「いつ頃から泊まったね」
「しん吉さんは先月からこの近辺をまわって居りまして、ここでも東屋という茶屋旅籠屋の表二階で三晩ほど打ちました。一座の五人はそれから八王子の方へ行きましたが、しん吉さんは体が少し悪いと云うので、自分だけはあとに残って、先月の晦日から手前共の二階に泊まって居りまして、闇祭りの日の午すぎに、これから一座のあとを追って行くと云って立ちました」
「この宿はずれに友蔵という厄介者がいる筈だが、あれはどうしたな」
「友蔵は無事で居ります。これも先月の晦日ごろでございましょうか、江戸の方へ二、三日遊びに行ったとか申して居りましたが、唯今は帰って居りまして、現にきのうも手前どもの店の前を通りました。博奕にでも勝ったと見えまして、それから女郎屋へまいって景気よく飲んで騒いでいたとか申します」
「鵜でも売れたのだろう」
「いえ、鵜はまだ売れません。家の前に売り物の札が付いて居ります」
「伊豆屋の若い者はどうしたね」
「きのうまで手前共に逗留でしたが、いつまでも手がかりが無いので、いったん江戸へ帰ると云って、今朝ほどお立ちになりました」
「それじゃ行き違いになったか」
「おめえは友蔵の家を知っているだろう。あいつは今夜、家にいるかどうだか、そっと覗いて来てくれ」
「ようがす」
「友蔵の奴を挙げますかえ」
「あいつ、どうも見逃がせねえ奴だ。不意に踏み込んで調べてやろう。先月の晦日ごろに江戸へ出たといい、景気よく銭を遣っているといい、なにか曰くがあるに相違ねえ」
「友蔵は家で酒を喰らっていますよ」
「友達でも来ているのか」
「それがね。髪も形も取り乱しているが、ちょいと踏めるような中年増に酌をさせて、上機嫌に何か歌っていましたよ」
「それが例の幽霊かな」
「なるほど蒼い顔をしていたが、確かに幽霊じゃねえ。第一、友蔵の娘という年頃じゃあなかった」
「よし」
「野郎ひとりに三人がかりも仰山だが、折角来たものだから、総出としよう。おれは此のままで宿屋の貸下駄をはいて行く。野郎、あばれるといけねえから、おめえ達は支度をして行ってくれ」


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