岡本かの子 『河明り』 「ま、譬えて云ってみれば、拗ねてみたり、気…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本かの子 『河明り』

現代語化

「たとえば、わがまま言ってみたり、気を持たせてみたり」
「それくらいのことなら、私だって前によく……」
「そうですか。では、手をつないでみたり……」
「だめ、だめ。そんな普通なじゃだめ。私はいつか、大旦那の還暦のお祝いのときに手伝いに行ったんです」
「酔ったフリをして、木ノさんの膝にもたれかかりました。色気は微塵もありません。お嬢さんには申し訳ないけど、お嬢さんのためにと思って、お嬢さんみたいな女性をじらしまくるあの有名な女嫌いの磐石板をどうかしてやってみたいと思いました。すると、あの磐石板は私の手をそっと握ったから、この男、女には挨拶くらいはできるんだと思って感心してたら、なんと私の脈を診てたんです。それから手を離して、そこにあった盃を取って、私の鼻先にちょろっと雫を垂らして、ここはペンキが剥げてるから船渠に行きやがれって言ったんです。私は悔しくて仕方なかったけど、……そのあとで、あの人を見たら、意地が悪い感じじゃなくて、ただ月を見てぼーっとお酒飲んでるように見えました。あんなの誰だって怒れなくなりますよ。私は、ついつい、ありがとうございますって頭を下げて船渠に行って顔を直しに行ったんですけど、すごい人ですよ」
「すごいよね。お嬢さんじゃなくても、木ノさんにはお手上げだね」
「愛嬌振り撒き」
「結婚しちゃえ!」
「面倒なのは、そういうことじゃないんだよ」
「そもそも、お嬢さんに聞きますが、あなたはあの人にどれくらい惚れてるんですか。許嫁だから、惚れる惚れないは関係ないんでしょうけど」

原文 (会話文抽出)

「ま、譬えて云ってみれば、拗ねてみたり、気を持たせてみたり」
「そのくらいのことなら、前に随分あたしだって……」
「そうでございますかねえ、じゃ、ま、抓っても見たり……」
「だめ、だめ、そんな普通な手じゃ。あたしいつか、こちらさまの大旦那の還暦のご祝儀がございましたわね。あのお手伝いに伺いましたとき」
「酔った振りして、木ノさんの膝に靠れかかってやりました。いろ気は微塵もありません。お嬢さんにゃあ済まないけど、お嬢さんの為めとも思って、お嬢さんほどの女をじらしぬくあの評判の女嫌いの磐石板をどうかして一ぺん試してやりたいと思いましたから。すると、あの磐石板はわたしの手をそっと執ったから、ははあ、この男、女に向けて挨拶ぐらいは心得てると、腹の中で感心してますと、どうでしょう、それはわたしが本当に酔ってるか酔ってないか脉を見たのですわ。それから手首を離して、そこにあった盃を執り上げると、ちょろりとあたしの鼻の先へ雫を一つ垂らして、ここのところのペンキが剥げてら、船渠へ行って塗り直して来いと云うんです。あたしは口惜しいの何のって、……でもね、そうしたあとで、あの人を見ても、別に意地の悪い様子もなく、ただ月の出を眺めてるようにぼんやりお酒を飲んでいる調子は、誰だって怒る気なんかなくなっちまいますわ。あたしは、つい、有難うございますとお叩頭して指図通り、顔を直しに行っただけですけれど、全く」
「全く、お嬢さんでなくても、木ノさんには匙を投げます」
「愛嬌喚き」
「結婚しちまえ!」
「厄介なのは、そんなことじゃないんだよ」
「そもそも、お嬢さんに伺いますが、あんたあの方に、どのくらい惚れていらっしゃるんです。まあ、お許婚だから、惚れるの惚れないのという係り筋は通り越していらっしゃるんでしょうけれど」


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