GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『蠅男』
現代語化
「そうですねえ、とにかく顔色の悪い大きな色眼鏡かけた人でした。風邪を引いてるって言ってたけど、ダラダラした長いオーバーを着て、襟を立ててブルブル震えてました。それに黒革の手袋をしたまま、井上 一夫、33歳って左手で書いてました」
「何か荷物を持ってた?」
「はい、持ってましたよ。大きなトランクです。洋行する人が持ってるような重いヤツでした。車から下ろす時も、ボーイを怒鳴りつけて、そっと3階に運ばせました」
「ほう、大きなトランクか」
「それです。それかもしれません。その井上さんの部屋に案内して下さい」
「え、――」
「何がそれだってんだ」
「それがあの恐ろしいハエ男なんです。私にはもう分かりました。早くその部屋に案内して下さい」
「え、あのハエ、ハエ男!あの殺人犯のハエ男だったんですか。言われてみると、確かに変な風体をしていましたね。何も気が付きませんでしたけど、まさかそれがハエ男だとは……」
「驚くのは後で結構だ。さあ早く、その井上 一夫さんの部屋に――」
「ああ、その人なら今は外出中です」
「何だって、外出だって。どうしたんだ、あいつは」
「ちょっと宝塚の新温泉に行くって言ってお出かけになりました」
「それは何時だ」
「来てすぐですよ。ちょうどあの西洋封筒を拾った直後でしたから、あれで午後4時10分か15分頃でしょう」
「うーむ、それだ。いよいよハエ男が確定した。分かったぞ分かったぞ」
「あなたにはよくお分かりでしょうけど、私は何も分かりません」
「いや、よく分かってるんだ。俺の言うことは間違いない。さあ早く、その井上さんの部屋に行こう。部屋の鍵を持ってきて」
原文 (会話文抽出)
「これはどんな風体の客人ですか」
「そうですなア、とにかく顔の青い大きな色眼鏡をかけた人だす。風邪ひいとる云うてだしたが、引きずるようなブカブカの長いオーバーを着て、襟を立ててブルブル慄えていました。そして黒革の手袋をはめたまま、井上一夫、三十三歳と左手で書っきょりました」
「なにか荷物を持っていなかった?」
「さよう、持っていましたな。大きなトランクだす。洋行する人が持って歩くあの重いやつでしたな。自動車から下ろすときも、ボーイたちを叱りつけて、ソッと三階へ持ってあがりましたがな」
「ほう、大きなトランク?」
「そいつだ。そいつに違いない。その井上氏の部屋に案内して呉れたまえ」
「えッ、――」
「なにがそいつだんネ」
「そいつが恐るべき蠅男なんだ。僕にはすっかり分ってしまった。早くそいつの部屋へ案内したまえ」
「へえ、あの蠅、蠅男! あの殺人魔の蠅男だっか。ああそういわれると、どうも奇体な風体をしとったな。気がつかんでもなかったんやけれど、まさかそれが蠅男だとは……」
「愕くのは後でもいい。さあ早くその井上一夫の部屋へ――」
「ああ、その人やったら、今はお留守だっせ」
「ナニ留守だッ。どうしたんだ、その男は」
「いえーな。ちょっと宝塚の新温泉へ行ってくるいうて出やはりました」
「それは何時だ」
「来て間もなくだっせ。ちょうどあの西洋封筒を拾ったすぐ後やったから、あれで午後の四時十分か十五分ごろだしたやろな」
「うーむ、そいつだ。いよいよ蠅男に極った。分ったぞ分ったぞ」
「あンさんにはよう分ってだすやろが、こっちには一向腑に落ちまへんが」
「いや、よく分っているのだ。僕の云うことに間違いはない。さあ早く、その井上氏の部屋へゆこう、部屋の鍵を持ちたまえ」