海野十三 『蠅男』 「――正木君。これを見給え、頭部の出血の個…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『蠅男』

現代語化

「――正木君。これを見てください、頭部に出血したところは、何か鋭い錐みたいなものを突き刺してできたんです。しかも一度突き刺した凶器を、後で抜いた形跡があります。ちょっと珍しい殺人方法ですね」
「そうですね、検事さん。凶器を抜いていくというのはすごく落ち着いてますよね、それにしても相当力が強い人間じゃないと、こうは抜けないでしょうね」
「うん、とにかくこれは普通の殺人方法じゃない」
「ねぇ、検事さん。一体この被害者は、首を絞められたのが先でしょうか、それとも鋭利なもので刺されたのが先でしょうか」
「それは正木君、もちろん鋭利なものによる刺殺の方が先だよ。なぜかって、まず出血の量が多いことを見ても、これは首を絞める前の傷だってことが分かるし、それから――」
「――縄の下にある血痕がこんなに遠くまで付いてるし、しかも血痕の上に縄の当たった跡が付いてるところを見ても、縄は後から首に掛けたことになる。だからこれは――」
「どうしたんですか、検事さん。何かありましたか」
「うん、正木君。さっきからどうも変なことあるんだ。血痕の上に触った縄が二種類あるんだ。つまり縄の跡にしても、これとこれとは違う。だから二種類の縄を使ったことになるんだけど、今死体の首に掛かってるのは一本きりだ」

原文 (会話文抽出)

「――正木君。これを見給え、頭部の出血の個所は、なにか鋭い錐のようなものを突込んで出来たんだよ。しかも一旦突込んだ兇器を、後で抜いた形跡が見える。ちょっと珍らしい殺人法だネ」
「そうだすな、検事さん。兇器を抜いてゆくというのは実に落ついたやり方だすな、それにしても余程力の強い人間やないと、こうは抜けまへんな」
「うん、とにかくこれは尋常な殺人法ではない」
「ねえ、検事さん。一体この被害者は、頸を締められたのが先だっしゃろか、それとも鋭器を突込んだ方が先だっしゃろか」
「それは正木君、もちろん鋭器による刺殺の方が先だよ。何故って、まず出血の量が多いことを見ても、これは頸部を締めない先の傷だということが分るし、それから――」
「――綱の下にある血痕がこんな遠くまでついているし、しかも血痕の上に綱の当った跡がついているところを見ても、綱は後から頸部に懸けたことになる。だからこれは――」
「何だす、検事さん。何かおましたか」
「うむ、正木君。さっきからどうも変なことがあるんだ。血痕の上に触った綱に二種あるんだ。つまり綱の跡にしても、これとこれとは違っている。だから二種類の綱を使ったことになるんだが、現在屍体の頸に懸っているのは一本きりだ」


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