海野十三 『蠅男』 「や、やられたッ。助けてえ――死んでしまう…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『蠅男』

現代語化

「や、やられた!助けてえ――死んじゃうよ――」
「おいおい、落ち着けよ。――」
「どうしたどうした」
「どっちが蠅男だ」
「蠅女もいるよ」
「たいしたことない蠅男だな」
「おい、お前は見たことあるような顔だな」
「えー、私は怪しい者ではありません。会社の庶務をしている山ノ井という者で、今日は社長の命令で手伝いに来たんです……」
「それでどうしたってんだ。殺されるとか死んじゃうって騒ぐのは――」
「いや、それがですね、私が階段の下にいた時、上でドタドタとすごい足音がしたんです。急いで上を見ると、白いものがスーッと飛んできて、この眉間に当たったと思ったらバッサリと!」
「なにがバッサリだ。上から飛んできたのは、そこにめちゃくちゃに壊れてる金魚鉢じゃないか。何を慌ててんだ。二階から落ちたんだろ」
「ああ金魚鉢? ああそうか。――背中がチクチクするけど、これは金魚が入ってピチピチ跳ねてるんだな」
「――女の方は誰だ。おい、こっち向け――」
「へへ、わ、私はお松と言って令嬢のお世話をしてるんです」
「ウム、お松か。――なんで金魚鉢を二階から落としたんだ。人騒がせな奴だな」
「金魚鉢をわざと落としたわけじゃないんです。走ってた時に、ぶつかってしまったんです」
「なんでそんなに夢中で走ってたんだ」
「それはあの――蠅男が、ゴソゴソと這っていく音を聞いたもので、びっくりして走っちゃったんです――」
「なんだって蠅男? 蠅男が這ってる音を聞いたのか。おい、それは本当なのか――」
「本当ですよ。絶対に変わりありません。ゴソゴソゴソと、重いものを引きずるような音がして、二階の廊下の床下を這ってました」
「二階の廊下の床下を――」
「ネズミじゃないか。ヘビが天井に巣を作ってないか。おいお松、ちゃんと答えろよ」
「違います、違います。ネズミがあんな大きな音立てますか。――ヘビ? ヘビが、こんな新築に入るわけないでしょ。気持ち悪い」
「ウム、今11時55分だ。――」
「ああ、検事さん。お松の話聞きましたか。蠅男がこの厳重な警戒線を突破して天井裏を這うなんて、本当のことだとは思えませんが、時刻も時刻ですから、一応ご主人の無事を確かめるだけでもしておいた方がよろしいんじゃないですか」
「聞いてみないより、聞いてみた方がいいだろうね。でもこんなくだらない騒ぎに、こんなにみんながここに集まってしまったら、完全な警戒網って言えないと思うけど、どうだ」
「おお」
「おいみんな、一体どうしたんだ。ちゃんと注意したのに、こう集まってくるのはだめだってんだ。――ああ、あの部屋で間違いないだろうな」
「ウム、よかった。――」
「おい異常はないか。ずっとお前にここにいてもらってたんだろ」
「はい、さっき音がした時、ちょっと動きましたが、すぐに戻って来て、ずっとここに立ってました」
「なんだ、やっぱり動いたのか」
「はい、ちょっとだけですよ。一分か二分です」
「一分でも二分でも、駄目じゃないか」
「じゃあ、ちょっと中へ合図を送ってみます」
「――ご主人!玉屋さん!」
「これはおかしいな。もっとガンガン叩いてみろ」
「――ちょうど午後十二時だ。これはどうしたんだろう」

原文 (会話文抽出)

「や、やられたッ。助けてえ――死んでしまうがなア――」
「こらこら、神妙にせんか。――」
「どうしたどうした」
「どちらが蠅男や」
「蠅女も居るがナ」
「あまりパッとせん蠅男やな」
「コラ、お前は見たような顔やな」
「へえ、私は怪しい者ではござりまへん。会社の庶務にいます山ノ井という者で、今日社長の命令で手伝いに参りましたわけで……」
「それでどうしたというのや。殺されるとか死んでしまうと喚きよったは――」
「いや、それがモシ、私が階段の下に居りますと上でドシドシとえらい跫音だす。ひょっと上を見る途端に、なにやら白いものがスーッと飛んできて、この眉間にあたったかと思うとバッサリ!」
「なにがバッサリや。上から飛んで来たというのは、そらそこに滅茶滅茶に壊れとる金魚鉢やないか。なにを慌てているねん。二階から転げ落ちてきたのやないか」
「ああ金魚鉢? ああさよか。――背中でピリピリするところがおますが、これは金魚が入ってピチピチ跳ねとるのやな」
「――女の方は誰や。コラ、こっち向いて――」
「へへ、わ、わたくしはお松云いまして令嬢はんのお世話をして居りますものでございます」
「ウム、お松か。――なんでお前は金魚鉢を二階から落としたんや。人騒がせな奴じゃ」
「金魚鉢をわざと落としたわけやおまへん。走って居る拍子に、つい身体が障りましてん」
「なんでそんなに夢中で走っとったんや」
「それはアノ――蠅男が、ゴソゴソ匍ってゆく音を聞きましたものやから、吃驚して走りだしましたので――」
「ナニ蠅男? 蠅男の匍うていっきょる音を聞いたいうのんか。ええオイ、それは本当か――」
「本当でっせ。たしかに蠅男に違いあらへん。ゴソゴソゴソと、重いものを引きずるような音を出して、二階の廊下の下を匍うとりました」
「二階の廊下の下を――」
「鼠とちがうか。蛇が天井に巣をしとるのやないか。オイお松、ハッキリ返事をせい」
「ちがいますがな、ちがいますがな。鼠があんな大きな音をたてますかいな。――蛇? 蛇が、こんな新築に入ってくるものでっしゃろか。ああ気持がわるい」
「ウム、いま十一時五十五分だ。――」
「ああ、検事さん。いまのお松の話お聞きでしたか。蠅男がこの厳重な警戒線を突破して天井裏を匍うというのは、本当のことやと思われまへんが、時刻も時刻だすよって、一応主人公の安否を聞いてみたら思いますけれど、どないなもんでっしゃろ」
「聞いてみない方より、聞いてみた方がいいだろうネ。しかしこんなくだらん騒ぎに、こんなに皆が一つ処に固まってしまうのじゃあ、完全な警戒網でございとは、ちょっと云えないと思うが、どうだ」
「おお」
「これ皆、一体どうしたんや。よく注意しておいたのに、こう集って来たらあかへんがな。――ああ、あの部屋に間違いはあらへんやろな」
「ウム、よかった。――」
「オイ異状はないか。ずっとお前は、ここに頑張っていたんやろな」
「はア、さっきガチャンのときに、ちょっと動きましたが、すぐ引返して来て、此処に立ち続けて居ります」
「なんや、やっぱり動いたのか」
「はア、ほんの一寸です。一分か二分です」
「一分でも二分でも、そらあかんがな」
「さあ、ちょっと中へ合図をしてみい」
「――御主人! 玉屋さーん」
「こら怪ったいなことや。もっとドンドン叩いてみてくれ」
「――丁度午後十二時や。こらどうしたんやろか」


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