GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『蠅男』
現代語化
「――私は署長の正木ですが、なにも変わったことはございませんか?」
「ああ署長さんですか。大変失礼しました。今のところ、何も変わりはありません。でも署長さん。殺人予告の二十四時間目って午後十二時ですよね、もうあと三十分くらいしかないですよ」
「そう――ちょっと待ってくださいね。ウム、今は十一時三十五分だから――ああご主人、あと二十五分の辛抱です」
「あと二十五分でも、危ないから、すぐに警戒を解いてもらっちゃいけませんよ。私もこの部屋から、朝まで出ませんから、いいでしょう?」
「承知しました。――すると朝まで、ご主人はどうお過ごしになるんですか」
「十二時過ぎたら、ここに用意してあるベッドに入って朝まで寝ます」
「そうなんですね。じゃ、お大事に、何かあったら、すぐあの信号の紐を引いてくださいね」
「わかりました。――じゃ、もう扉を叩かないでくださいね。蠅男が来たのかと思って、びっくりしちゃいますから」
「――それからあのウ、池谷与之助は帰ってきましたか。いませんか?」
「ああ池谷さんですか。さあ――」
「どこかに出かけてしまったそうです。うちにいませんよ」
「ああそうでしたか。どうも。――じゃこれで話は終わりにします」
「――話は終わりにします、か。これが永遠の喋り納めっていう意味かしら。おっとこれは良くない暗示だ」
「あれってなんだい、池谷与之助ってのは」
「その池谷与之助ですがね。さっき怪しい奴がいるって知らせたのは。夜になって、この屋敷にやってきて、主人の部屋に出たり入ったり、令嬢の糸子さんを隅に引っ張って耳元で囁いたり、かと思うと、会社の従業員を集めてコソコソ話したり、挙動不審な男なんです」
「フーン、何者なんだい、彼は」
「主治医って言ってました。宝塚で病院を開いてる新療法の医者だそうです。さっき屋敷を出たところですが、どうも胡散臭い奴でした」
原文 (会話文抽出)
「――さっき断っときましたやろ。もう叩いたりせんといておくれやす。そのたんびに心臓がワクワクして、蠅男にやられるよりも前に心臓麻痺になりますがな」
「――私は署長の正木だすがなア、なにも変ったことはあらしまへんか」
「ああ署長さんでっか。えろう失礼しましたな。今のところ、何も変りはあらしまへん。しかし署長さん。殺人予告の二十四時間目というと午後十二時やさかい、もうあと三十分ほどだすなア」
「そう――ちょっと待ちなはれ。ウム、今は十一時三十五分やから――ええ御主人、もうあと二十五分の辛抱だす」
「あと二十五分でも、危いさかい、すぐには警戒を解いて貰うたらあきまへんぜ。私もこの室から、朝まで出てゆかんつもりや、よろしまっしゃろな」
「承知しました。――すると朝まで、御主人はどうしてはります」
「十二時すぎたら、此処に用意してあるベッドにもぐりこんで朝方まで睡りますわ」
「さよか。そんならお大事に、なにかあったら、すぐあの信号の紐を引張るのだっせ」
「わかってます。――そんならもう扉を叩かんようにお頼み申しまっせ。蠅男が来たのか思うて、吃驚しますがな」
「――それからあのウ、池谷与之助は帰って来ましたやろか。そこにいまへんか」
「ああ池谷はんだっか。さあ――」
「どこやら行ってしもうたそうや。うちに居らしまへんぜ」
「ああそうでっか。おおきに。――そんならこれで喋るのんはお仕舞いにしまっせ」
「――喋るのはお仕舞いにしまっせ、か。これが永遠の喋り仕舞いとなるという意味かしら。ホイこれは良くない卦だて」
「あれはなんだネ、池谷与之助てえのは」
「その池谷与之助ですがな。さっき怪しい奴が居るいうてお知らせしましたのんは。夜になって、この邸にやってきよりましたが、主人の室へズカズカ入ったり、令嬢糸子さんを隅へ引張って耳のところで囁いたり、そうかと思うと、会社の傭人を集めてコソコソと話をしているちゅう挙動不審の男だすがな」
「フーム、何者だネ、彼は」
「主治医や云うてます。なんでも宝塚に医院を開いとる新療法の医者やいうことだす。さっき邸を出てゆっきよったが、どうも好かん面や」