海野十三 『三人の双生児』 「珠枝さん――」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『三人の双生児』

現代語化

「珠枝さん―」
「あなたは僕に聞きたいことがいろいろあるでしょう。いや、しばらく黙っていてください。僕が順番に話しますから、落ち着いてよく聞いてください。―まず真一くんの殺害犯のことですが、それは今日、本人の自白によってはっきりしました」
「ま、誰なんでしょう」
「そんなに興奮しないでください。―犯人は、やっぱり速水さんでした。静枝さんは無関係です」
「ああ、速水さんが真ちゃんを殺したの?」
「そうです。僕はある交換条件を提示して、その代わりに聞きました。その条件というのが、あなたがお腹に宿している子を流産することなんです。驚かないでください。実は、速水さんは本当の妹ではない蛇使いのお八重という女をだまして、静枝と名乗らせてこの家に入れました。お八重がたまたまあなたによく似ていたので利用しただけで、そうすることであなたの財産をお八重に継がせて、速水さんはその恩に着せて莫大な財産を自由にしようとしたんです。この計画はうまくいきました。これで大丈夫だと思っていたところ、意外にもあなたが妊娠したため、速水さんはパニックになりました。なぜなら、あなたに子供が生まれたら、財産はすべてその子が継ぐことになるからです。それで困っていたところへ、僕が悪人らしく流産手術を持ちかけたので、安心して真一くんを亜砒酸で殺したことを自白したというわけです。もちろん想像通り、この家に潜んでいた速水さんは、酔っ払った真一くんが水を飲むのを見越して、水瓶に毒薬を入れていました。彼女が事件後、真っ先にその水を捨てに行ったのも納得できます」
「ところで真一くんですが、彼は間違いなくあなたの兄です。『3つ子の双生児』の説明は後で詳しくしますが、亡くなったあなたのお母さんは、真一くんとあなたを生んだに違いありません。これは徳島に隠れている当時の産婆の平井お梅という人物を探し出して話を聞きました。書いてもらったものもありますから、後でゆっくり見てください。ただし、あなたと真一くんは、瓜二つの1卵性双生児ではなく、顔の違う2卵性双生児だったことは、あなたもよく分かっているでしょう。しかし、それ以外にも恐ろしい因縁話があります」
「あなたは真一くんと双生児なのにあまり似ていないことを不思議に思うでしょうが、そこに重大な謎が隠されています。よく理解してください。実はあなたたちは双生児ですが、その卵子は同じ母親のものですが、精子を供給した父親が違っていたのです。わかりますか?―つまりはっきり言うと、真一くんの精子は亡くなったあなたのお父さんのもので、あなたを産んだ精子は、実は僕のお父さんの赤沢常造なんです。さ、そう言うと驚くかもしれませんが、あなたはこんなことを知っていますか。膣内の精子のほとんどは数日で死んでしまいますが、中には2週間経っても生き残っているものもあることを。だから2卵性の双生児ができたとしても、それが同じ日に放出された精子によるとは限りません。そう言えばもうわかるでしょうが、僕のお父さんの赤沢常造の精子が放出された数日か10数日後に、真一くんのお父さんが船から降りてまた精子を放出する。このとき偶然にも2つの精子が、あなたのお母さんの2つの卵に取り付いて、この2卵性双生児ができたのです。それで納得していただけると思いますが、あなたと僕は戸籍上では無関係ですが、実は異母兄妹なんです。だからあなたと僕が兄妹のように似ているのも納得できるでしょう」

原文 (会話文抽出)

「珠枝さん――」
「貴女は僕に聞きたい色々のことがらを持っているだろうネ。イヤ、暫く黙っていてくれたまえ。僕が適当な順序を考えて一応話をするからどうか気を鎮めてよく聞いてくれ給え。――まず真一君を殺した犯人のことだが、それは今日、本人の自白によってハッキリ分ったよ」
「まア、誰なのでしょう」
「そう興奮しちゃいけない。――その犯人というのは、やはり速水女史だった。静枝さんは無関係だ」
「ああ、速水さんが真ちゃんを殺したの」
「そうなのだ。僕は或る交換条件を提出し、その代償として聞いたんだ。で、その条件というのは、君が腹に持っている胎児を流産させることなのだ。イヤ驚いてはいけない。一体、速水女史は事実君の妹でもなんでもない蛇使いのお八重という女を籠絡して、静枝と名乗らせ、この家へ乗り込ませた。それはお八重がたまたま君によく似ていたので使ったまでで、そうすることによって君の財産をお八重に継がせ、そこで速水女史は軍師の恩をふきかけて結局莫大な財産を自由にしようという企みをしたのだ。その計画はたいへん巧く行った。これなら大丈夫と思っていたところ、意外にも意外、君が姙娠してしまったので、速水は大狼狽を始めたのだ。なぜなら、君に子供が生れりゃ、一切の財産はその子供が継ぐに決っているからネ。そこでこれはたまらないと悄気ているところへ、僕が悪党らしく流産手術を持ちだしたものだからすっかり安心して、真一君を亜砒酸で殺したことを自白に及んだというわけさ。もちろん想像していたとおり、この家に潜伏していた女史は、酔っている真一が水を呑むのを見越して、水瓶の中にその毒薬を入れて置いたのだ。女史が事件後、真先にその水を明けに行ったのも肯かれるネ」
「ところで真一君だが、あれは紛れもなく君の同胞だ。『三人の双生児』の説明は、後で詳しく云うけれど、とにかく亡くなった君たちの母親は、真一と君とを生んだのに違いない。これは徳島に隠棲しているその時の産婆の平井お梅というのを探しだして聞きだしたのだ。書いて貰ってきたものもあるから、後でゆっくり見るがいい。ただし、君と真一とは、あのよく似ていて瓜二つという一卵性双生児ではなくて、すこし顔の違ってくる二卵性双生児であったことは、君にもよく分るだろう。しかしまだその上に、恐ろしい因縁話があるのだ」
「君と真一君が、双生児にしては余り似ていないことを不思議に思うだろうが、そこに重大な謎が横たわっているのだ。このところをよく分って貰いたいが、実は君たちは双生児であって、その卵細胞は同じ母親のものながら、その精虫を供給した父親が違っていたのだ。いいかネ、分るだろうか。――つまり、ハッキリ云うと、真一君を生じた精虫は君の亡くなった父親のものであり、それから君を生じた精虫は、実に僕の父親である赤沢常造のものだったんだ。さ、そういうと不思議がるかも知れないが、君はこんなことを知っているだろう。膣内の精虫の多くはその日のうちに死んでしまうけれど、中には二週間たっても生存しているものもあるということを。だからここに二卵性の双生児が出来たとしても、それが同一日に発射された精虫によるとは限らないのだ。そういえばもう分っただろうが、僕の父の赤沢常造の精虫が発射されたその数日か十数日か後に、真一君の父親が船から下りて来てまた精虫を発射する。このとき偶然にも二人の精虫が、君の母親の二つの卵に取りついてこの二卵性双生児が出来上ったのだ。それで合点がゆくことと思うが、君と僕とが、戸籍の上では赤の他人でありながら、実は二人は父親を同じくする異母兄妹なのだ。だから君と僕とが、兄妹のように似ていることが肯かれるだろう」


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