海野十三 『疑問の金塊』 「早いもので、ボーイさんも相手にせず、電話…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『疑問の金塊』

現代語化

「早いもので、ボーイも相手にせず、電話もつながらなくなって……」
「何だよ、こんな朝っぱらから」
「いや政どん、今日は朝から、俺も大騒ぎだよ。あの、カンカン寅の一味が、俺のところになだれ込んできた」
「ほうほう」
「昨日は相手にしなかった海岸通りの建物を買いたいっていうんだ」
「うん、うん」
「俺は腹が立って、厳しく断ったよ。あれはとっくに売った。もう遅いよってな。そしたら、それはいかん、ぜひ俺たちに売れって。それは駄目だって、さらに断ると、向こうは必死だ。こっちに買い戻さないと親分に済まない。売らないというなら手前は生かしておけないと脅すんだ。それがどうも本気っぽいので、政どんの昨夜の話を思い出し、じゃあちょっと相談してくるといってその場を納めたけど……」
「――じゃあ、売ってやればいいじゃないか」
「えっ」
「売ってやるけど、少し高くしろって言うんだ。五千円なら売るが、一銭も負けないって言ってやれ」
「それはどうかなあ」
「断るのなら、俺はあの建物を手放さないって言うんだ。……それは冗談だけど、これは儲け話なんだ。相手はきっと買うよ。あいつらはきっと今朝方、留置所のカンカン寅と連絡を取ったんだ。そのとき買っとかなきゃ手前たちに見切りを付けるぞとか言って脅したんだよ。カンカン寅から出た話なら、五千円には必ず買う。やってみたらわかるよ」
「ああ、ちょっと」
「いいかいじいさん。五千円を手にしたら、すぐに横浜を出発するんだ。娘さんも連れて行くんだぜ」
「どうして?」
「もうこれ以上横浜にいても、いいことは起こらないよ。お前たちは苦しくなる一方だ。いい加減に見切りをつけて、横浜とおさらばにするんだ。ぐずぐずしてると、カンカン寅の一味にひどい目に遭うぞ」
「……」
「そしてその五千円だけど、それもじいさんにあげるよ。小さいときいろいろとかわいがってもらったお礼に」
「五千円を?」
「五千円よりもその言葉の方が嬉しいけど、一体俺たちはどこに行けばいいんだい?こうなると、俺はあなたから遠く離れるのが寂しいよ」
「満洲に行くんだ。ちょうどいいことに、今夜11時に横浜を出る貨物船清見丸っていうのがある。その船長は銀座生まれで、親しい先輩だ。あいつに話しておくから、今夜のうちに港を出るんだ」
「満洲かい。……それもいいだろう」
「じゃあ娘さんに話をして、すぐに支度にかかるんだ。外には誰にも言うなよ」
「それは大丈夫だ」
「じゃ、万事あなた任せにするよ。順番としては、まず五千円の取引をしよう」
「ちょっと待って」
「あの建物の取引だけど、今夜の10時にしようと言ってくれ」
「ばかに遅いじゃないか。今すぐでもいいのかい?」
「ちょっと都合が悪いんだ。というのも、あれを私が買ってから、中身を少し運び出したんだよ。それを元通りに戻すとなると、どうしても午後10時になる」
「へえ、中身をね」
「中身というと、あの酸が入ってる……」
「そうそう、酸をどこかへ持ってったんだ。買ったんだから、お宝は俺のものだぜ」
「そういえばカンカン寅の一味も、あの中身をまるごとつけろって言ってたよ。これは変だぞ。……おい政どん、噂によると、あのカンカン寅が銀座の金塊を盗み出したそうだね。おまえは昨日、あの建物にカンカン寅が隠していた9万円の金塊を探し出して、運び出したんだって?」
「金塊はなかったよ」
「金塊どころか、金の延べ棒も入っていなかったことは、警官たちが一つ一つ調べて認めてるよ」
「ほうほう、その時警官が立ち会ったのかい?」
「立ち会ったともさ。何しろその中身は今警察に行ってるんだぜ」
「へえへえ、中身が警察にね。俺にはわかんないよ。一体あの酸をどうするつもりなんだ?」
「今に号外が出るよ。そのとき理由がわかるよ」

原文 (会話文抽出)

「早いもので、ボーイさんも相手にせず、電話も通じて呉れないんで……」
「なんだネ、こんな朝っぱらから」
「イヤ政どん、今日は早朝から、わしも大騒ぎさ。アノ、カンカン寅の一家が、わしのところへ押し寄せてきやがった」
「ほうほう」
「昨日はてんで相手にしなかったあの海岸通の建物を買うというのさ」
「うん、うん」
「わしは腹が立って、手厳しく跳ねつけてやったよ。あれはもう売っちまった。もう遅いよとナ。すると、それはいかん、是非こっちへ売れという。それは駄目だと、尚も突っぱねると、向うは躍気さ。こっちへ買い戻さねば親分に済まねえ。売らないというのなら手前は生かしちゃ置けねえと脅しやがる。それがどうも本気らしいので、政どんの昨夜の話もあり、じゃあ一寸相談してくるといってその場は納めたが……」
「――じゃあ、売っておやりよ」
「えッ」
「売ってやるが、すこし高いがいいかと云うんだ。五千円なら売るが、一文も引けないと啖呵を切るんだ」
「そいつはどうも」
「云うのが厭なら、私はあの建物を手離さないよ。……そいつは冗談だが、こいつは儲け話なんだ。相手は屹度買うよ。彼奴等はきっと今朝がた、留置場のカンカン寅と連絡をしたのだ。そのとき買っとかなけれア手前たちと縁を切るぞぐらいなことを云って脅したんだよ。カンカン寅から出た話なら、五千円にはきっと買う。やってごらんよ」
「ああ、ちょっと」
「いいかい爺さん。五千円を掴んだら、直ぐ横浜を出発んだ。娘さんも連れて行くんだぜ」
「どうして?」
「もう此上横浜に居たって、面白いことは降って来やしないよ。お前たちは苦しくなる一方だ。いい加減に見切をつけて、横浜をオサラバにするんだ。ぐずぐずしていりゃ、カンカン寅の一味にひどい目に遭わされるぞ」
「……」
「そしてその五千円だが、それも爺さんにあげるよ。小さいときいろいろと可愛がって貰ったお礼にネ」
「五千円を?」
「五千円よりもその言葉の方が嬉しいが、一体わし達はどこへ行けばいいのかネ。こうなると、わしはお前のところから遠く離れるのが心細くなるよ」
「満洲へゆくんだ。丁度幸い、今夜十一時に横浜を出る貨物船清見丸というのがある。その船長は銀座生れで、親しい先輩さ。そいつに話して置くから、今夜のうちに港を離れるんだ」
「満洲かい。……それもよかろう」
「じゃ娘さんに話をして、直ぐに仕度にかかるんだ。外には誰にも話しちゃ駄目だぜ」
「そりゃ大丈夫だ」
「じゃ、万事お前さんの云うとおりにしよう。それでは順序として、まず五千円の商談をして来よう」
「ちょっと待った」
「あの建物の取引だが、今夜の十時にするといって呉れ」
「莫迦に遅いじゃないかネ。いま直ぐじゃ拙いのかい」
「ちょっと拙いのさ。というのは、あれを私が買ってから、中身を少し搬び出してしまったのよ、そいつを元通りに返すとすると、どうしても午後十時になる」
「へえ、中身をネ」
「中身というと、あの酸の入っている……」
「そうさ、酸を或る所へ持っていったのさ。買ったからにゃ、宝ものは私のものだからネ」
「そういえばカンカン寅の一味も、あの中身をソックリつけてと云っていたよ。こいつは変だぞ。……オイ政どん、噂に聞くと、あのカンカン寅が銀座の金塊を盗みだしたというが、お前は昨日、あの建物にカンカン寅が隠してあった九万円の金塊を探しだして、搬びだしたんだナ」
「金塊は無かったよ」
「金塊どころか、金の伸棒も入っていなかったことは、警官たちが一々検査して認めているよ」
「ほほう、そのとき警官が立ち会ったのかい」
「立ち会ったともさ。何しろその中身はいま警察へ行っているんだぜ」
「へへえ、中身が警察へネ。わしにゃ判らない。一体その酸をどうしようというので……」
「いまに号外が出る。そのとき訳が判るよ」


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