GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『ゴールデン・バット事件』
現代語化
「それはゴールデン・バットについてなんだ。君はあそこの床に、バットがバラバラ転がってるのに気がつかなかったかい?」
「そういえば、5〜6本、転がってそうだな」
「5〜6本じゃないよ。全部で32本もあるんだ。でもこれが、50本も入るシガレット・ケースから転げ出したわけじゃないんだ。そんなケースなんて一つもあの部屋にはないんだ。あるのはバットの、あのお馴染みの空箱だけだった。空箱は全部で4つあったよ」
「ほう」
「それからもっと面白いことがある。あの部屋には灰皿が3つあるんだけど、その灰皿にすごい特徴があるんだ」
「どういうこと?」
「灰皿の中に、マッチの軸とタバコの灰が入ってるのは不思議じゃないけど、もう一つ必ず有りそうでいてあの灰皿には見つからないものがあるんだ」
「それは?」
「吸い殻が1つも転がってないんだ。灰の量から考えると、少なくとでも15〜16個の吸い殻があるはずなのに、1つも見つからないんだ。これはすごく面白いことだよ」
「タバコについて、まだ発見したことがある。それは床に転がってる32本のうち、汚れてないのが25本で、残りの7本は踏みつけられたみたいにつぶれてるんだ。調べてみると、ハッキリ靴の裏型がついてるから、これは靴で踏みつけられたものと見ていいだろう。でも靴は、普通ならあの部屋の入り口で脱いで上がるようになってる。ところがこの踏みつけられた7本のバットから考えると、誰かが靴を入り口で脱がずに、そのまま上ったっていうことになるよ」
「それが例の短刀を持った男じゃないのかね?」
「そうかもしれない。そうかもしれないけど、とにかくバットの上につけられた靴の跡なんだ。小さい面積だから、どんな形の、どんなサイズの靴だってまでは言えないんだ」
「なるほど」
「それで、君に一つ質問なんだけど」
「事件の最初、君がアパートの裏口に回ったときに、路地に何か人影みたいなものを見かけたって言ってたけど、あれは男だったのか、それとも女だったのか、わからなかったよな?」
「さあ、どっちともわからないな」
「わからない。わからなければ、それでもいいとして、僕はあの部屋に事件の前後にいたと思われるもう一人の人物を知ってるんだ」
「それは誰?」
「それは女だ。しかも若い女だ」
「どうしてそれがわかったのかい?」
「ベッドの上に枕があったけど、探してみるとベッドの下にもう一つの枕が転がってて、これには女性の髪がついてた。それだけじゃない。テーブルの上に半開きになったコンパクトが発見された。白い粉がそのテーブルの上に転がってた。粉の形と、コンパクトをどけてみた跡の形から、コンパクトの持ち主があれをテーブルの上に置いたのは、かなり最近のことだと推定される。――それでさっきの質問の目的がわかったと思うけど、もしかして君が、その若い女を見かけやしなかったかって考えたんだ」
「待ってくれ。そう言えば……」
原文 (会話文抽出)
「あの部屋で面白いことを見つけたがネ」
「それはゴールデン・バットについてなのだ。君はあすこの床の上に、バットがバラバラ滾れているのに気がつかなかったかい」
「そういえば、五六本、転がっているようだネ」
「五六本じゃないよ。本当は皆で三十二本もあるんだ。といってこれが、五十本も入るシガレット・ケースから転げ出したのじゃないのだよ。そんなケースなんて一つもあの部屋には無いのだ。あるのはバットの、あのお馴染の空箱だけだった。空箱の数はみんなで四個あったがネ」
「ほほう」
「それからもっと面白いことがある。あの部屋には灰皿が三つもあるんだが、さて其の灰皿の中に大変な特徴がある」
「というと……」
「灰皿の中に、燐寸の軸と煙草の灰が入っているのに不思議はないが、もう一つ必ず有りそうでいてあの灰皿には見当らないものがあるのだ」
「それは何かというと吸殻が一つも転っていないのだ。灰の分量から考えると、すくなくとも十五六個の吸殻がある筈と思うのだが、一個も見当らないのだ。これは大変面白いことだ」
「煙草について、まだ発見したことがある。それは床の上に転がっている三十二本のうち、汚れないのが二十五本で、残りの七本は踏みつけられたものと見え、ペチャンコになっていた。それを調べてみると、ハッキリ靴の裏型がついているから、これは靴で踏みつけられたものと見てよい。しかし靴は、普通ならばあの部屋の入口で脱いで上るようになっている。しかるにこの踏みつけられた七本のバットから考えると、誰か靴を入口で脱がないで、その儘、上へ上った者がいたという説明になるわけだ」
「それが例の短刀をもった男じゃないのかネ」
「そうかも知れない。そうかも知れないが、何しろバットの上につけられた靴の跡のことだ。小さい面積のことだから、ハッキリどんな形の、どんな寸法の靴だとまでは云えないのだ」
「なるほど」
「そこで僕は、君に一つ質問があるが」
「事件の最初、君がアパートの裏口へ廻ったときに、露地に何か人影のようなものを見懸けたといったが、あれは男だったか、それとも女だったか、解らなかったかネ」
「さあ、どっちとも解らないネ」
「解らない。解らなければ、それでもいいとして、僕はあの部屋に事件の前後に居たものと思われるもう一人の人物を知っているのだ」
「それは誰のことだい」
「それは女である。しかも若い女である」
「どうしてそれが判ったのかい」
「それはベッドの上に枕があったが、探してみるとベッドの下にもう一つの枕が転げていて、これには婦人の毛髪がついていた。それだけではない。卓子の上に半開きになったコンパクトが発見された。白い粉がその卓子の上に滾れていた。粉の形と、コンパクトをどけてみた跡の形とから、コンパクトの主があれを卓子の上に置いたのは、相当生々しい時間の出来ごとだと推定される。――それでさっき僕のした質問の目的が解ったことだろうと思うが、或いは君が、その若い女を見かけやしなかったのかと考えたのだ」
「待ってくれ、そう云えば……」