海野十三『ゴールデン・バット事件』「これは何か鈍器でやられたもののようですネ…

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青空文庫図書カード: 海野十三『ゴールデン・バット事件』

現代語化

「これは鈍器でやられたみたいですね。かなり重い鈍器ですな。頭の右側より、左肩の方がずっとひどくやられていますよ。骨がバラバラに砕けています」
「そうです」
「凶器がそこにありますよ」
「どれですか？」
「ほら、これですよ」
「外側はご覧の通り毛糸で編んであります。でもこれは単なる袋ですよ。中身は鉄の砲丸です。あの競技で使うのと同じですが、すごく重いです。こちらから見ると、血がついてるのが見えますよ」
「これは頭からの出血が染みたんですな」
「そうらしいです。ところで丘田さん。この死者の致命傷って、やっぱりこの外傷なんですか？」
「もちろんです。何かご意見でも……」
「意見ってほどじゃないんですが、この死者の体を見ると、普通の人には見られない特徴があるように思うんです。例えば、中毒症とか」
「おっしゃる通りです」
「そう仰るなら言いますが、実はこの金さんはモルヒネ中毒患者ですよ」
「ほう。あなたのところへ、治療を受けに来られたんですか？」
「そうです。この4～5日前からです」
「今日も診ましたか？」
「今朝診ましたよ。かなりひどい状態です。普通の人が耐えられる量の4倍くらい打たないと効かないんです」
「4倍ですか。なるほど。――」

原文 (会話文抽出)

「これは何か鈍器でやられたもののようですネ。余程重い鈍器ですナ、頭の方よりも、左肩が随分ひどくやられていますよ。骨がボロボロに砕けています」
「そうでしょう」
「そこに凶器がありますよ」
「どれです」
「ほら、これですよ」
「外側は御覧のとおり毛糸で編んであります。しかしこれは単なる袋ですよ。中身は鉄の砲丸です、あの競技に使うのと同じですが、非常に重いです。こっちから御覧になると、血の附いているのが見えますよ」
「これは頭部からの出血が染ったのですナ」
「そうらしいですネ。ときに丘田さん。この死者の致命傷は、やはりこの外傷によるものでしょうか」
「無論それに違いがありませんが、何か御意見でも……」
「意見というほどのものではありませんが、この死者の身体を見ますと、普通の人には見られない特異性があるように思うんです。例えば、中毒症といったようなものがです」
「そうです、そうです」
「そう仰有れば申上げてしまいますが、実はこの金さんはモルヒネ剤の中毒患者ですよ」
「ほほう、貴方のところへ、治療を求めに参りましたか」
「そうなんです。実はこの四五日この方ですがネ」
「今日も御覧になりましたか」
「今朝診ましたよ。大分ひどいのです。普通人の極量の四倍ぐらいやらないと利かないのですからネ」
「四倍ですか、成程。――」

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