GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『地獄街道』
現代語化
「かゆくなるのかい? うん、話してあげよう。――西洋に不思議な酒の作り方があるんだ。禁止されてるお酒を作っては、高値で愛好家に売りつけるんだ。法の目を逃れるために、ボトルは普通のウイスキーのボトルに入れて、ラベルには玄人じゃないとわからない印をつけてる。そういう怪しげなお酒があることはわかるよね?」
「……」
「すごく高価なものだから、日本には入ってきてないけど、だけど1本だけ間違ってこの銀座に来てるんだ。とあるバーの棚の、とある隅っこにあるんだ。でもそのバーのマスターも、そのお酒の本当の効果を知らないから、おかしいよね」
「ということは……」
「まあ聞いてよ」
「そのお酒は滅多に客には出さないんだ。でも特別なお客さんに出したり、間違えて出したりすることもある。それはバーのマスターが時々休む月曜日の夜に、不慣れなウェイトレスが時々それを客に出すんだ。もちろんウェイトレスはそんな怪しげなお酒とは知らずに、安いウイスキーと思って使ってしまう。――でもこのお酒を飲んじゃうと大変なことになる」
「なんだって大変なこと!」
「そう。大変も大変だ、自分の体が箱詰めになっちゃうんだ。もちろん息はない。二度と日の光を見ることはできないんだ」
「おい辻永。その洋酒の名前を早く言えよ」
「まあ落ち着いて。落ち着いてって」
「俺の推理の鋭さに驚かないのか? こういうことなんだ。その怪しげなお酒を飲んで例のバーを出るとフラフラと歩き出すころ、一気に効き目が出てくるんだ。まず第一にトイレに行きたくなる。第二に訳のわからない興奮に耐えられなくなる。で、そのバーを出てからトイレに行きたくなると、どこかで用を足さなきゃいけないけど、いい場所がない。どこかに――と思うと、頭に浮かんでくるのは、そのすぐ先の川べりだ。その川べりに行って用を足す。でもその辺に桜ン坊っていう、例のストリート・ガールが客待ちしてるんだ。これはカフェから出て来た若者を狙ってるんだけど、バー・カナリヤから出て来た怪しげなお酒に酔っぱらったお客さんでも構わない。お客さんの方では構わないどころかもう半分気でも狂ってる。だから桜ン坊に捕まって、タクシーを捕まえると、例の女の家の方に向かって飛んでくんだ。そのうちに、また怪しげなお酒の反応が出てきて、今度は全身がかゆくなる。かゆくて苦しみ出すころ、車は彼女の家近くまで来てる。家を隠すために家近くで降りて、あとは歩くんだ。でもかゆくてたまらなくなって暴れ出す。それで、あの近くの一軒の薬屋を叩き起こして、かゆみ止めの薬を買ってもらう。――それで、ここから先はどうなると思う?」
「いや、それはちょっと極端な推理なんじゃないかな」
原文 (会話文抽出)
「あの話ネ、かゆくなるというのは、どういうわけなのだ」
「かゆくなるわけかい。ウン、話をしてやろう。――西洋に不思議な酒作りがある。それは禁止の酒を作っては、高価ですき者に売りつけるのだ。法網をくぐるために、酒瓶の如きも普通のウイスキーの壜に入れ、ただレッテルの上に、玄人でなければ判らない目印を入れてある。こうした妖酒のあることは君にも判るだろう」
「……」
「これは大変に高価なもので、到底日本などには入って来ないわけのものだが、だが一本だけ間違ってこの銀座に来ているのだ。或るバーの棚の或る一隅にあるんだ。ところがそのバーの主人も、その酒の本当の効目というものを知らないのだから可笑しな話じゃないか」
「それでは若しや……」
「まア聞けよ」
「その酒は滅多に客に売らないのだ。だが特別のお客に売ることがあるし、また間違って売る場合もある。それはバーの主人がときどき休む月曜日の夜に、不馴れなマダムが時々こいつを客に飲ませるのだ。勿論マダムはそんな妖酒とは知らず、安ウイスキーだと思って使ってしまうのだ。――ところでこの酒を飲まされたが最後大変なことになる」
「ナニ大変なこと!」
「そうだ。大変も大変だ、自分の身体が箱詰めになってしまうんだ。無論息の根はない。再び陽の光は仰げなくなるのだ」
「オイ辻永。その洋酒の名を早く云ってしまえよ」
「まア鎮まれ。鎮まれというに」
「おれ様の探偵眼の鋭さについて君は駭かないのか。いいかネ。その妖酒を飲んで例のバーを出るとフラフラと歩き出すころ一時に効目が現れてくるのだ。まず第一に尿意を催す。第二に怪しい興奮にどうにもしきれなくなる。ところでそのバーを出てから尿意を催すと、どこかで始末をつけねばならぬが、適当なところがない。どこかで――と考えると、頭に浮かんでくるのは、その直ぐ先の川っぷちだ。その川っぷちへ行って用を足す。ところがその辺に桜ン坊という例のストリート・ガールが網を張っているのだ。これはカフェ崩れの青年たちを目当てのガールなのだが、たまたまバー・カナリヤから出て来た彼の妖酒に酔いしれたお客さんだとて差閊えない。客の方では差閊えないどころかもう半分気が変になっている。だから桜ン坊の捕虜になって、円タクを拾うと、例の女の家の方面へ飛ぶのだ。そのうちに、又々妖しの酒の反応が現れて、こんどは全身がかゆくなる。かゆくて苦しみ出すころ、自動車は彼女の家の近くに来ている。隠れ家をくらますために家の近所で降りて、あとはお歩いだ。しかし何分にもかゆくて藻掻きだす。そこであの近所にある一軒の薬屋を叩き起して、かゆみ止めの薬を売って貰う。――どうだ、この先はどこへ続いていると思う」
「いや、それはあまりに独断すぎる筋道だと思う」