海野十三 『地獄街道』 「実に恐ろしい器械群だと君は思わんか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『地獄街道』

現代語化

「本当に恐ろしい機械群だと思わないか?」
「うん、たった一つのスイッチを入れるだけで、こんなに巨大な機械が動き出して、千手観音も敵わないような作業を一気にやってのけるんだもん……」
「いやそれより恐ろしいのは、この素直すぎる機械たちのすることだ。このベルトと歯車の間にもし何かが挟まったとしても、機械は平然と、ビール瓶や木箱と同じように扱っちまうだろう」
「ということは、あの可哀そうな青年たちがこの機械に巻き込まれたってこと?」
「可能性はあると思う。断定はしないけど……」
「もしこの窓から人間が入ってきたとしたら、もっとはっきりするよね」
「何か手掛かりになるものあるかな?」
「おっと!」
「どうしたの?」
「おや、偶然かもしれないけど、面白いものがあるよ。ここに換気窓があって窓の外に1メートルくらい出てる。ほら、建物の近くの方の隅っこに、小さい石炭の粉が少し溜まってるでしょ?」
「なるほど、君の観察力はすごいね」
「だからね、もし石炭の吊り籠の上に人間が乗っていて、それが下に落ちると、地面には落ちずにこの換気窓に引っかかるだろう。すると勢いでズルズルとこの部屋に滑り込んでくることが想像できる。滑り込んだら最後、この恐ろしい機械群だ」
「吊り籠に人間が乗ってたとしても、この窓にだけ落ちてくるとは考えられないよ」
「うん。でもあそこを見てよ」
「あそこのところに腕金が門みたいに突き出てるんだ。あの吊り籠が石炭だけを積んでるなら、問題なくあの下をくぐれるけど、もし長い人間の体があったら、あの腕金に引っかかってすぐに下に落ちるだろう」
「なるほど、そんな仕組みになってるんだね」
「でももう一つ考えなきゃいけないのは、吊り籠にいた人間は意識を失ってたってことだ」
「ほう」
「意識があったら、こんな場所に運ばれてくるはずないし、もし体が縛られてたら、下に落ちられなかっただろう。さあ、とにかくあのケーブルが怪しいとなると、吊り籠はどういうルートで人間の体を入手してきたのかってことだ。下に行って石炭の貯蔵庫まで行ってみようよ」

原文 (会話文抽出)

「実に恐ろしい器械群だと君は思わんか」
「うむ、たった一つのスイッチを入れたばかりで、こんな巨人のような器械が運転を始め、そして千手観音も及ばないような仕事を一時にやってのけるなんて……」
「イヤそれより恐ろしいのは、この馬鹿正直な器械たちのやることだ。もしこのベルトと歯車との間に、間違って他のものが飛びこんだとしても、器械は顔色一つ変えることなく、ビール瓶と木箱と同じに扱って仕舞うことだろう」
「すると君は、あの不幸な青年たちが、この器械にかかったというのかネ」
「懸ることもあるだろうと思う程度だ。断定はしない。しかし……」
「若しこの窓から人間が入って来ることがありとすればだネ、これはもっとハッキリする」
「なにかそんな手懸りになるものがあるか知ら?」
「呀ッ!」
「どうした」
「オヤ、偶然かも知れないが、面白いものがあるネ。ここに通風窓があって窓の外へ一メートルも出ている。ホラ見給え、家に近い方の隅っこに、小さい石炭の粉がすこし溜っているじゃないか」
「なるほど、君の眼は早いな」
「だからネ、もし石炭の吊り籠の上に人間が乗っていて、それが下へ落ちると、地上へは落ちないでこの通風窓にひっかかることだろう。すると勢いでスルスルとこの室に滑りこんでくることが想像できる。滑りこんだが最後、この恐ろしい器械群だ」
「吊り籠に若し人間が乗っていたとしても、この窓にばかり降ってくるなどとは考えられない」
「うん。ところがアレを見給え」
「あすこのところに腕金が門のような形になって突き出ているのだ。あの吊り籠が石炭だけを積んでいたのでは、苦もなくあの下をくぐることが出来るが、もし長い人間の身体が載っていたとしたら、あの腕金に閊えて忽ち下へ墜ちてくるだろう」
「なるほど、そうなっているネ」
「しかしもう一つ考えなければならぬ条件は、吊り籠に載っていた人間は気を失っていたということだ」
「ほほう」
「気が確かならば、オメオメこんな上まで搬ばれて来るわけはないし、若し身体が縛りつけられてあったとしたら、下へは墜ちることが出来なかろう。さア、とにかくあのケーブルが怪しいとなると、吊り籠の先生、どこから人間の身体を積んできたかという問題だ。下へ降りて石炭貯蔵場まで行ってみようよ」


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