海野十三 『赤外線男』 「赤外線男というものが棲んでいるそうだ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『赤外線男』

現代語化

「赤外線人間がいるらしい」
「それって、僕らの目には見えないってことなのか?」
「深山理学士の何たらって機械で見ると、確かに見えたって」
「赤外線人間」
「私はずっと前に学界に予告して準備していた赤外線テレビ装置の組み立てを、このほど完成しました。これは普通のテレビとほぼ同じものですが、違う点は赤外線だけを感知するテレビで、可視光線は装置の入り口の黒い吸収ガラスで遮って、装置の中には入れません。だからずっと赤外線しか映らないテレビです。私はこの装置が完成するやいなや、長年の願望を何よりも早く叶えたく思い、装置を使って、研究所の運動場の方向を覗くことにしました。ちょうど夕暮れ時でした。肉眼では人の顔も薄暗くてはっきり見分けられないような状態でしたが、この赤外線テレビに写るのは、ほとんど昼間と変わらない明るさでした。それは太陽の残光に赤外線がたくさん含まれていて、運動場を照らしていたからでしょう。もちろん画面の調子からすると、私たちがすでに十分に知っている赤外線写真と同じで、例えば木の青い葉っぱなどは雪のように真っ白に映っていました。なんて驚くべき機械の魅力なんでしょう。「でも、それは本当の意味での驚きではありませんでした。後に私を病気のようにも驚倒させるものがあろうとは、今日の今日まで考えたこともありませんでした。それはまさに、私たちがまだ肉眼で見たことがない不思議な生き物が、この機械によって発見されたということです。それは確かに運動場の上をゴソゴソと這いまわっていました。私は気のせいではないかと、機械から目を離し、肉眼でもって運動場を見ましたが、そこにはその影もありませんでした。これはと思って、赤外線テレビ装置を覗いてみると、確かに運動場のテニスコートのネットの柱の近くに、動いているものがあります。やがて、その生き物は直立しました。それを見ると驚くべし、人間です。しかも日本人の顔をした男です。背はかなり高い。がっちり肥えています。真っ黒な服を着ているようです。少し悪魔のような、また工場の隅から飛び出してきた工員のような格好です。それほどありありと眺められる人の姿でありながら、一度元の肉眼に戻すと、全く見えません。赤外線でないと全く姿が見えない男――ということで、私はこの生き物に『赤外線人間』という名前をつけたいと思います。しかし残念なことに、やがてこの『赤外線人間』はこっちに気づいたのか、急に歯をむいて怒ったような顔をしたかと思うと、スーッと走り始めました。そしてあれよあれよという間に、視界の外に出てしまいました。驚いてテレビ装置のレンズを向け直しましたが、もはや駄目でした。しかしとにかく、私は初めて『赤外線人間』の棲んでいることを知りました。私たち人間の肉眼では見えない人間が棲んでいるとは、なんて驚くべきことでしょう。そしてまア、なんて恐ろしいことでしょう」
「赤外線人間」
「赤外線人間」

原文 (会話文抽出)

「赤外線男というものが棲んでいるそうだ」
「そいつは、わし等の眼には見えぬというではないか」
「深山理学士の何とかという器械で見ると、確かに見えたというではないか」
「赤外線男」
「予はかねて学界に予告して置いた赤外線テレヴィジョン装置の組立てを、此の程完成した。これは普通のテレヴィジョンと殆んど同じものだが、変っている点は、赤外線だけに感ずるテレヴィジョンで、可視光線は装置の入口の黒い吸収硝子で除いて、装置の中には入れない。だから徹頭徹尾、赤外線しか映らないテレヴィジョンである。「予はこの装置の完成するや、永い間の欲望を何よりも早く達したいものと思い、装置を使って、研究所の運動場の方向を覗くことにした。折から夕刻だった。肉眼では人の顔も仄暗くハッキリ見別けのつかぬような状態であったが、この赤外線テレヴィジョンに映るものは、殆んど白昼と変らない明るさであった。それは太陽の残光が多量の赤外線を含んで、運動場を照しているせいに違いなかった。勿論画面の調子から云って、吾人が既に充分に知っている赤外線写真と同じで、たとえば樹々の青い葉などは雪のように真白にうつって見えた。なんという驚くべき器械の魅力であるか。「しかしこれは真の驚きではなかった。後になって予を発病に近いまでに驚倒せしめるものがあろうとは、今日の今日まで考えたことがなかった。それは実に、吾人がいまだ肉眼で見たことのなかった不思議な生物が、この器械によって発見されたことである。それは確かに運動場の上をゴソゴソと匍いまわっていた。予は眼のせいではないかと、器械から眼を離し、肉眼でもって運動場を見たが、そこにはその影もない。これはと思って、赤外線テレヴィジョン装置を覗いてみると、確かに運動場のテニスコートの棒ぐいの傍に、動いているものがあるのだ。その内に、彼の生き物は直立した。それを見ると驚くべし、人間である。しかも日本人の顔をした男である。背は相当に高い。がっちり肥えている。なんか真黒な洋服を着ているようだ。鳥渡悪魔のような、また工場の隅から飛び出してきた職工のような恰好である。それほどアリアリと眺められる人の姿でありながら、一度元の肉眼にかえると、薩張り見えない。赤外線でないと一向に姿の見えない男――というところから、予はこの生物に『赤外線男』なる名称をつけたいと思う。 しかし残念なことに、やがてこの『赤外線男』はこっちに気がついたものと見え、キッと歯をむいて怒ったような顔をしたかと思うと、ツツーっと逸走を始めた。そしてアレヨアレヨと云う裡に、視界の外に出てしまった。駭いてテレヴィジョン装置のレンズを向け直したが、最早駄目だった。しかし兎も角も、予は初めて『赤外線男』の棲んでいることを知った。われ等人間の肉眼では見えない人間が棲んでいるとは、何という駭くべきことだ。そしてまア、何という恐ろしいことだ」
「赤外線男」
「赤外線男」


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