海野十三 『爬虫館事件』 「北外さん、私は園長の身体が、この調餌室か…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『爬虫館事件』

現代語化

「北外さん、私は園長の遺体が、この調餌室か隣の爬虫館で料理されちゃったように思うんですけど」
「へえ」
「いや、それはすごい発見ですね」
「あなたは園長さんが失踪した朝の、11時20分から正午まではどこいましたか?」
「私が有力な容疑者ってわけですか」
「その時間に、あなたはここの室内に一人でいた――こう言うと、あなたは喜ぶかもしれませんが、実はあの時間は、家族全員がここにいました。11時40分頃に、動物の餌が届くことになってて、その間は部屋から離れられないんです」
「じゃあその時間の前後は、何をしていたんですか?」
「時間前は、6人の飼育員が包丁を研いだり、檻を開けたりして、結構忙しく動いてました。そのうちいつも通り、材料を積んだトラックがドカンとやってきます。そしたらもう戦場みたいな騒ぎで、この寒さなのにタンクトップ一枚でびしょ濡れになるくらい汗をかきます。それが終わるとすぐ調理です。煮るものってのはほとんどないけど、それぞれの動物に合わせた大きさに切ったり、容器に入れたりするのが大変です。肉類は、生きてるウサギとか鶏には、死後の世界に行くための赤札をぶら下げるだけですが、それ以外は必ず頭付きの魚を用意したり、馬肉の重さを測って適当な大きさに切ったり、中には骨付きじゃないといけないものもあって、それを準備したりと、めちゃくちゃ忙しくて、お昼のお弁当がちゃんと正午に食べられるなんてことはほとんどなくて、いつも1時近くになっちゃうんです。その忙しさの中、園長を捕まえて、それを料理して象や河馬の特別なごちそうにしなきゃいけないらしくて、もう大変ですよ」

原文 (会話文抽出)

「北外さん、私は園長の身体が、この調餌室か、それとも隣りの爬虫館かで、料理されちまったように思うのですがね」
「はァはァ」
「いやそれは大発見ですな」
「貴方は園長が失踪された朝の、十一時二十分頃から正午まで何処に居られましたか」
「僕が有力なる容疑者というお見立ですな」
「さてお尋ねの時間に於ては、この室内に僕一人が残っていた――とこう申上げると、貴方は喜ばれるのでしょうが、実はその時間フルに、一族郎党ここに控えていたんです。それというのが、十一時四十分頃に、けだものの弁当の材料が届くことになっていまして、室からズラかることが出来ないのです」
「それでは其の時間前後は、何をしておいででした?」
「先ず時間前は、当日も六人の畜養員が、庖丁を研いだり、籠を明けたり、これでなかなか忙しく立ち働きました。そのうちにいつもの時間になると、トラックに満載された材料がドッと搬ばれて来ます。するともう戦場のような騒ぎで、この寒さに襯衣一枚でもって全身水を浴たように、汗をかきます。それが済むと早速調理です。煮るものは大してありませんが、それぞれのけだものに頃合いの大きさに切ったり、分けて容物に入れたりするのが大変です。肉類の方は、生きている兎だの鶏だのには、冥途ゆきの赤札をぶら下げるだけですが、その外のは必ず頭のある魚を揃えたり馬肉の目方をはかって適当の大きさに截断し、中には必ず骨つきでないといけないものもあって、それを拵えるやら、なかなか忙しくて、おひるの弁当が、キチンと正午にいただけることは殆んど稀で、いつも一時近くですね。その忙しさの間に、園長を掴えてきて、これも料理しスペシァルの御馳走として象や河馬などにやらなきゃならんそうで、いやはや大変な騒ぎですよ」


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