GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『爬虫館事件』
現代語化
「あ、園長の娘さん、トシ子さんだったのね」
「「こんな見出しでございました」」河内園長の怪奇失踪・動物園に遺留の帽と上衣」
「ハイ、トシ子デス」
「ウチは、動物園のすぐ隣にあるんですけど、いなくなったのは10月30日の朝8時半なんです。午前中は父ちゃんが園内歩いてたのを目撃した人もいるみたいなんですけど、午後はほとんどいないみたいで。お昼のお弁当を私が持ってったんですけど、結局食べずに帰ってきました。昼過ぎに事務所に戻ってこなかったんでみんな不思議がってはいたんですけど、ウチの親父、割と変わり者で、気が向くと勝手に園から出て、広小路まで行って寿司屋とかおでん屋にふらっと飛び込んで、1時か2時にひょっこり帰ってきてることがあるんですよ。だから、この日もいつも通りなんだろうと思ってたんです。でも、閉園時間の5時になっても帰ってこなくて。たまには夜まで出歩いて帰らないこともあるんですけど、この日事務室に帽子と上衣が残ってたんで、いつもと違うなと。 西郷さんって副園長やってる若い理学士がいるんですけど、その西郷さんがうちに寄ってくれて『園長さんのいつものあの病気が始まったみたいですよ』って教えてくれたんです。でも、結局その夜は帰ってきませんでした。夜遅くなることはあっても、たとえ1時や2時でも帰ってきてたのに、帰ってこないなんておかしすぎでしょ。だから、母さんも私も心配しすぎてじっとしてられなくて。万が一危害が及んでる可能性もあるんで、一刻も早く見つけ出して助け出したいんです。それで相談して、力を貸してくれってお願いに来たんです。父ちゃんの生死の話ですけど、どうでしょうか?」
「さあ…」
「これだけじゃ、河内園長の生死については分からないんですけど、ご希望なら、もう少しお話を聞かせてもらって、他も調べてみます」
「引き受けてくださって、ありがとうございます」
「何でも聞いてください」
「動物園では、大騒ぎで探したみたいですか?」
「それはもう、めちゃくちゃ探したそうですよ。今朝、動物園に行って、副園長の西郷さんに会ったんですけど、その話によると、念のためってんで行方不明になった30日の閉館後に、手分けして園内を全部調べたそうです。今朝もまた、もう一度探したみたいですよ」
「なるほど」
「西郷さんは、驚いていましたか?」
「はい、特に今朝なんかは、めちゃくちゃ心配してたみたいでしたよ」
「西郷さんの家と家族は?」
「浅草の今戸です。独身で、下宿してるみたいですよ。でも、西郷さんは、めちゃくちゃいい人ですよ。もし疑うようなこと言ったら、恨みますからね」
「いや、そんなこと考えてませんよ」
原文 (会話文抽出)
「ではお話を申しあげますが、実は父が、突然行方不明になってしまったんでございます――。昨日の夕刊にも出たのでございますが、あたくしの父というのは、動物園の園長をして居ります河内武太夫でございます」
「ああ、貴女が河内園長のお嬢さんのトシ子さんでいらっしゃいますか」
「河内園長の奇怪な失踪・動物園内に遺留された帽子と上衣」
「はァ、トシ子でございます」
「ご存知でもございましょうが、私共の家は動物園の直ぐ隣りの杜の中にございまして、その失踪しました十月三十日の朝八時半に父はいつものように出て行ったのです。午前中は父の姿を見たという園の方も多いのでございますが、午後からは見たという方が殆んどありません。お午餐のお弁当を、あたくしが持って行きましたが、それはとうとう父の口に入らなかったのでした。正午にも事務所へ帰ってこないことを皆様不思議に思っていらっしゃいましたが、父は大分変り者の方でございまして、気が変るとよく一人でブラリと園を出まして、広小路の方まで行って寿司屋だのおでん屋などに飛び込み、一時半か二時にもなってヒョックリ帰園いたしますこともございますので、その日も多分いつもの伝だろうと、皆さん考えておいでになったのです。しかし閉園時間の午後五時になっても帰って参りません。たまにはずっと街へ出掛けて夜分まで帰らないこともありますが、その日は事務室に帽子もあり上衣も残って居ますので、いつもとは少し違うというので、西郷さん――この方は副園長をしていらっしゃる若い理学士です――その西郷さんがお帰りにうちへお寄り下すって、『園長の例の病気が始まった様ですよ』と注意をしていって下さいました。ところが其の夜は、とうとう帰って参りません。夜遅くなることはありましても、たとい一時になっても二時になっても帰ってくる父です。それが帰って来ないのですから、どうしたことだろうと母も私共も非常に心配しています。園内も調べていただきましたが判りません。警察の方へも捜索方をお願いいたしましたが、『別に死ぬ動機も無いようだから今夜あたり帰って来られますよ』と云って下さいました。しかし私共は、なんだか其の儘では、じっと待っていられないほど不安なのでございます。万一父が危害を加えられてでもいるようですと、一刻も早く見付けて助け出したいのでございます。それで母と相談をして、お力を拝借に上ったわけなのでございます。どう思召しましょうか、父の生死のほどは」
「さあ――」
「どうもそれだけでは、河内園長の生死について判断はいたしかねますが、お望みとあらば、もう少し貴女様からも伺い、その上で他の方面も調べて見たいと思います」
「お引受け下すって、どうも有難とう存じます」
「何なりとお尋ねくださいまし」
「動物園では大いに騒いで探したようですか」
「それはもう丁寧に探して下すったそうでございます。今朝、園にゆきまして、副園長の西郷さんにお目に懸りましたときのお話でも、念のためと云うので行方不明になった三十日の閉門後、手分けして園内を一通り調べて下すったそうです。今朝も、また更に繰返して探して下さるそうです」
「なるほど」
「西郷さんは驚いていましたか」
「はァ、今朝なんかは、非常に心配して居て下さいました」
「西郷さんのお家とご家族は?」
「浅草の今戸です。まだお独身で、下宿していらっしゃいます。しかし西郷さんは、立派な方でございますよ。仮りにも疑うようなことを云って戴きますと、あたくしお恨み申上げますわ」
「いえ、そんなことを唯今考えているわけではありません」