海野十三 『夜泣き鉄骨』 「そんな、莫迦な話が、あるもんか!」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『夜泣き鉄骨』

現代語化

「そんなバカな話があるか!」
「そう笑うけどさ組長さん」
「昨夜の事なんだよ、それは……。火の番の常爺が、両方の耳で、たしかに、そいつを聴いたよッて、青い顔をして、このおらに話したんだ。満更、嘘を言ってるんじゃ、思えない」
「組長さん、あれは本当です」
「なんだと――」
「お前は、信用ならないな。極道が軽卒なことを言って、後で笑われんなよ」
「大丈夫ですよ――」
「それについては、ちょっとばかり、お前の恥も、さらけ出さなきゃならねえが、もう5日ほど前のことだ。徹夜勝負が、12時を過ぎたばかりに、すっからかんでヨ、場に貸してやろうっていう親切者もいなくてな、やむなく、工場の宿直、たあさんのところへ、真夜中っていうのに、無心に行ったんだ。さ、その無心を叶えて貰っての帰りさ、通りかかったのがこの話をした第九工場の横手。突然、キーという軋むような音が聞こえた。(おや、どこだろう?)って思って、俺は立ち止まった。しばらくは、何も音がしない。(聞き間違いかな?)と思って、歩き出そうとすると、そこへ、キーってな、また聞こえたんだ。音のする場所は、たしかにわかった。第九工場の中だ。(何の音だろう?夜勤やってるのかな?)そう思って俺は、顔を上げて、ガラスが貼ってある工場の窓を見上げたけど、中は真っ暗で、何も光が見えない。(これは変だ!)急に背筋が、ゾクゾクと寒くなってきた。そこへまたその怪しい音が……。怖いと思うと、尚更聞きたい。重い鉄扉に耳をくっつけて、俺は、たしかに聞いた。キー、カンカンカン、硬い金属が、軋んだり噛み合ったりするような、鋭い悲鳴だった」
「多分、工場に、ネズミが暴れてるんだろ」
「なんで、組長!」
「おれには、あの音が、どこから起きてるのか、ちゃんと見当がついてるんだ」
「じゃあ、早く言えってことよ」
「おい、みんなも聞けよ」

原文 (会話文抽出)

「そんな、莫迦な話が、あるもんか!」
「そう笑いなさるけどナ、組長さん」
「昨夜のことなんだよ、それは……。火の番の、常爺が、両方の耳で、たしかに、そいつを聴いたよッて、蒼い顔をして、此のおいらに話したんだ。満更、偽りを云っているんだたァ、思えねぇ」
「組長さん、それァ本当なんだ」
「なんだとォ――」
「てめえは、雲的だな。雲的ともあろうものが、軽卒なことを喋って、後で笑れンな」
「大丈夫ですよ――」
「それについちゃ、ちィっとばかり、手前の恥も、曝けださにゃならねえが、もう五日ほど前のことでさァ。徹夜勝負のそれが、十二時を過ぎたばかりに、スッカラカンでヨ、場に貸してやろうてえ親切者もなしサ、やむなく、工場の宿直、たあさんのところへ、真夜中というのに、無心に来たというわけ。さ、その無心を叶えて貰っての帰りさ、通り懸ったのが今話しの第九工場の横手。だしぬけに、キーイッという軋るような物音を聴いた。(オヤ、何処だろう)と、あっしは立停った。暫くは、何にも音がしねえ。(空耳かな?)と思って、歩きだそうとすると、そこへ、キーイッとな、又聞えたじゃねえか。物音のする場所は、たしかに判った。第九工場の内部からだッ。(何の音だろう? 夜業をやってんのかな)そう思ったのであっしは、顔をあげて、硝子の貼ってある工場の高窓を見上げたんだが、内部は真暗と見えて、なんの光もうつらない。(こりゃ、変だ!)俄に背筋が、ゾクゾクと寒くなってきた。そこへ又その怪しい物音が……。恐いとなると、尚聴きたい。重い鉄扉に耳朶をおっつけて、あっしァ、たしかに聴いた。キーイッ、カンカンカン、硬い金属が、軋み合い、噛み合うような、鋭い悲鳴だった」
「大方、工場に、鼠が暴れてるんだろう」
「どうして、組長!」
「あっしにァ、あの物音が、どこから起るのか、ちゃんと見当がついてるのでサ」
「ンじゃ、早く喋れッてことよ」
「こう、みんなも聴けよ」


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