GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『ネオン横丁殺人事件』
現代語化
「……い、一平のでしょう」
「なんだと、一平のライターだって」
「おみねさん、さっき答えてくれなかったことあったよね。この寝床の一つはあなたが寝てたけど、もう一つは誰が寝てたの?ナンバーワンの女給ゆかりの布団だけど、入ってたのは別人だった。いい?この帆村君が、さっき4時前に、ここから背の高い男が逃げるのを発見したんだ。で、このライターを家の中で拾った。そしたら、こっちの布団(とある寝床を指しながら)には、その背の高い奴、このライターの持ち主が寝てたんだ。もしこのライターが一平のだったら、あなたはここで一平と寝てたことになるよ、それでいいかい」
「そんな、一平なんて……」
「もう一つ見せたいものがある」
「このピストル、知らない?」
「ああ、これ……。これ、一平が持ってたピストルです。あいつ、これでいつか私を……。私を……」
「やっぱり、あいつだ。あいつだ。一平が虫尾を撃ったんだ。犯人はあいつ以外いない。そうなんですよオ、そうなんです」
「おみねさん、落ち着いて。外山君、この女の人を階下で休ませてあげて」
「どうだ、帆村君」
「これはただの男女関係で、一平が女給のゆかりの代わりに入ってた。タイミングを見計らって屋根裏に登って、虫尾を撃って逃げた。逃走中に玄関でライターを落として、十字路で君に見つかって、逃げたんだろ」
「でも、逃げるならなんで寝床でぬくぬくしてたの?カーテンの裏でも押入れの中とか、いくらでも隠れる所あるでしょ」
「うん、こう考えたらどうだ。ちょっとこじつけ気味だけど、あの夜、おみねは虫尾の所で用事を済ませると、この部屋に戻った。じいさんがトイレに行ってる時に、隣の布団を見て(ゆかりって本当に寒がりで、頭からかぶって寝るんだわ)と思った。で、部屋に戻ると、脅迫状が怖くなって、カギをガッチリかけて寝た。それで、おみねは一平が寝てるゆかりの布団に潜り込んで、午前3時半までいた。それから頃合いを見て、事件が始まった。――」
「それにしても午前4時って、犯行に遅すぎますよ」
「いやいや、一平が脅迫状に寒い日にって書いた。1日のうちで一番寒いのは午前4時頃だ。だから合ってるよ」
「よく知ってますね課長、午前4時頃が一番寒いなんて。それはそれとして、僕にはなんかしっくりこないんです。もう一つ気になるのは、ピストルが撃たれてから犯人が逃げるまで、10分近くあったこと。犯罪者の行動にしては、ちょっとのんびりすぎじゃないでしょうか。3分もあれば十分なはず。なのに犯人は10分かかって、挙句の果てにライターを落とし、おみねさんはごまかそうとして、ゆかりの布団を整えることすらしなかった。この2人、相当慌ててたんです。計画的な殺人なら、そこまで慌てる必要はないはずなのに」
「うーん、となると君の結論は?」
「僕にはまだ分かりません」
「でも、この事件を解くにはこれ以上関係者がいない限り、3元連立方程式の答えを2元連立方程式から求めようとやってるようなもんだ」
「ほう、つまり、君はゆかりにも疑いがあるってこと?」
「課長殿、女給のゆかりがこっそり帰ってきたので、連れて参りました」
「なんだ、ゆかりが……」
「おう、ゆかりさん、こっちに来てくれ」
「あんた、昨日、何時頃からどこへ行ってました?怒るわけじゃないから、正直に言いなさい」
「あたし、あのウなんですけど、昨夜は、ちょっと外泊したんです……」
原文 (会話文抽出)
「このライターは誰のです?」
「……い、一平のでしょう」
「なに一平のライターだって」
「おみねさん、君が先刻返事をしてくれなかったことがあったね。この二つの寝床の一つは君が寝ていたが、今一つには誰が寝ていたか。それはナンバー・ワンの女給ゆかりの布団なんだろうが、入ってたのは別人だった。いいかね。この帆村君は、さっき四時前に、ここから長身の男が逃げてゆくのを発見したんだ。つづいてライターをこの家のうちで拾った。すると、こっちの布団(と、一方の寝床を指しながら)には、その背の高い、そのライターの持ち主が寝ていたのだ。もしそのライターがネオン屋の一平のだったら、お前さんはここで一平と寝てたことになるよ、それでいいかい」
「まァ、誰が一平なんかと……」
「もう一つお前さんに見せたいものがある」
「このピストルを知らないかい」
「ああ、これは……。これこそ一平のもってたピストルです。あいつは、これでいつかあたしのことを……。あたしのことを……」
「やっぱし、あいつだ。あいつだ。一平が主人を撃ったのです。その外に犯人はありません。そうなんですよオ、そうなんです」
「これ、おみねさん、しっかりしないか。おい外山君、この婦人を階下へ連れてって休ませてやれ」
「どうだ帆村君」
「これは単なる痴情関係で、一平が女給ゆかりの身代りにこの寝床にもぐっていて、頃合を見はからって、屋根裏にのぼり、主人の虫尾を射って逃げ、その途中で入口にライターを落とし四つ辻では君に見咎められて、逃走したと解釈してはどうかね」
「だが、同じ逃げるものなら、どうして寝床にぬくぬくと入っていたのでしょう。隠れるところはカーテンの後でも、押入の中でもいくらもありますよ」
「うん、そいつはこう考えてはどうか。すこし穿ちすぎるが、あの夜、おみねは虫尾の寝床で彼の用事を果すと、この部屋に退いた。爺さん便所に立つときに、隣りの布団をみて(ゆかりの奴、寒がりだから頭から布団をかぶって寝てやがる)と思った。それから再び自分の室に入ると、脅迫状が恐いものだから、厳重に錠をおろして寝た。そこでおみねは、先客の一平が寝ているゆかりの布団へもぐりこんで、午前三時半までいた。それから頃合よしというのであの犯行が始まった。――」
「それにしても午前四時近くの犯行は、すこし遅すぎますよ」
「なあに、一平が脅迫状に寒い日にやっつけると書いた。一日のうちでも一番寒い時刻というのは午前四時ごろだ。で、合っているよ」
「えらいことを課長さんは御存知ですね、一日のうちで午前四時近くが、一番気温が低いなんて。それはそれとして、僕にはどうもぴったりしませんね。もう一つ気になるのは、ドーンとピストルが鳴ってから犯人が逃げだすまでの時間が、十分間ちかくもありましたが、これは犯罪をやった者の行動としては、すこし機敏を欠いていると思うです。タップリみても三分間あれば充分の筈です。しかも犯人は十分もかかりながら遽てくさってライターを落とし、おみねさんは胡麻化すにことかいて、ゆかりの寝床を直すことさえ気がつかなかった。これから見ても両人は余程あわてていたんです。計画的な殺人なら、なにもそんなに泡を食う筈はないのです」
「うむ、すると君の結論は、どうなのだ」
「僕にはまだ結論が出ません」
「だが、この事件を解くにはもっと沢山の関係者がでてこないかぎり、三次方程式の答えを、たった二つの方程式から求めるのと同じに、不可能のことです」
「ほほう、すると、君は、ゆかりのことなんかも怪しいと見るかね」
「課長どの、唯今、女給のゆかりが、こっそり帰ってきたのを、ここへひっぱりあげて参りました」
「なに、ゆかりというナンバー・ワンが……」
「おお、ゆかりさんか、ちょっとこっちへ来て下さい」
「あなた、昨夜、何時ころから出て、どこへ行ってました、叱るわけじゃないから、ドンドン言ってください」
「あたし、あのウなんですノ、昨夜は、ちょっと外泊したんですが……」