GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 海野十三 『省線電車の射撃手』
現代語化
「さっき聞いた話だと、車内の誰かが撃ったってことだけど、あなたが降りてきたのはずいぶん後じゃないか。そんなに遅れて出てきて何かわかるんだ?そもそも、俺はあの車内にいたけど、ピストルの音なんか聞こえなかったぞ。ね、あなたも聞こえなかったでしょ?」
「ほらごらん、弾丸は窓の外から飛んできたに違いない。こんな無茶苦茶なことを言うのはやめてくれよ。あなたの不注意のせいで、大勢の中から俺たち2人だけがこうして連れてこられて、おまけに人殺しだって証言するなんて、ふざけるなー……」
「林三平さん、静かにしなさい」
「戸浪三四郎さんから何か別の話を聞きたいのですが?」
「僕はちょっと意見があります。さっき言ったように、探偵小説家という立場から言わせてもらうので、実際とは大きく違うかもしれません。僕は殺された美少女、――一宮かおるさんでしたっけ?かおるさんの真向かいに座ってたんですが、確かにピストルの発砲音は聞こえませんでした。でも、ちょっと耳に残る鈍い音が聞こえたんです。そう、空気をシュッと切るような音です。すごく鈍くてかすかでした。これは多分右耳で聞いたんだと思います。右耳というと、電車の進行方向側の耳です。その先には、倉内さんのいた車掌室があります。またその右耳のある隣には、50センチくらい離れて、日本髪の女性が座ってました。そういうことを考えると、弾丸は僕の体よりも右側の方から飛んできたと思われます。林さんは僕よりずっと左側だったので関係なさそうです。車内で撃ったとすれば、僕も容疑者の1人でしょうが、僕より右側の人たちも同じように疑われるべきでしょう。もちろん日本髪の女性も、失礼ですが倉内車掌もです」
「するとあなたは、車内説ですか?」
「いえ、どちらかというと僕は車外説です。弾丸は車外から撃ち込まれて、日本髪の女性と僕の間を抜けて、正面に座ってた一宮かおるさんの胸を貫いたんです。シュッという音は、銃弾が僕の右耳をかすめたときに聞こえたんだと思います」
「他に聞かせていただくことはもうありませんか?」
「現場にいた者としては、もうないです。老婆心ながら言わせてもらうと、現場付近を広く捜索するといいと思います。もしあの時銃弾が乗客に当たらなかったとしたら、銃弾は窓の外に飛び出したと思うんです。いや、そんな銃弾がもうすでにたくさん落ちてるかもしれません。そういうものから犯人の手がかりが得られるかもしれません。それから遺体もよく調べてほしいんですが、何か変わったところはなかったですか?」
「いえ、どうもありがとうございました」
原文 (会話文抽出)
「ばば馬鹿を言っちゃいかん」
「いま聞いてりゃ、車内の者が射ったということだが君が出て来たのは随分経ってからじゃないか。そんなに後れ走せに出てきて何が判るものか。第一、あたしはあの車内に居たが、ピストルの音をきかなかった。ね、あなたも聞かなかったでしょう」
「ほら御覧なせえ、鉄砲弾は窓の外から飛んできたのに違げえねえ。あまり根も葉もないことを言って貰いたかねえや。手前の間抜けから起って、多勢の中からコチトラ二人だけがこうして引っ張られ、おまけに人殺しだァと証言するなんて、ふざけやがって……」
「これ林三平さん、静かにしないか」
「戸浪三四郎さんから何か別な陳述を承りたいですが」
「僕はすこし意見を持っています。先刻申しあげたように探偵小説家という立場から僕は申すので、或いは実際と大いに違っているかも知れません。僕は殺された美少女、――一宮かおるさんと云いましたかネ、かおるさんの直ぐ向いに居たのですが、確かにピストルの爆音を耳にしませんでした。ですが、ちょっと耳に残る鈍い音をきいたんです。さよですなア、空気をシュッと切るような音です。きわめて鈍い、そして微かな音でした。これはどうやら右の耳できいたのです。右の耳というと、電車の進行方面の側の耳です。その行手には、倉内君の居られた車掌室があります。またその右の耳のある隣りには二尺ほど離れて、日本髪の婦人が腰をかけて居りました。そんなことから思い合わせると、弾丸は僕の身体より右側の方からとんで来たと思われます。林さんは僕よりずっと左手に居られたので関係はないようです。車内で射ったとすれば、私も嫌疑者の一人でしょうが、僕より右手にいた連中も同時にうたがってみるべきでしょう。日本髪の婦人は勿論のこと、失礼ながら倉内車掌君も同類項です」
「すると貴方は、車内説の方ですか」
「いえ、寧ろ僕は車外説をとります。弾丸は車外から射ちこまれ、例の日本髪の婦人と僕との間をすりぬけて、正面に居た一宮かおるさんの胸板を貫いたのです。シュッという音は、銃丸が僕の右の耳を掠めるときに聞こえたんだと思います」
「もう外に聞かしていただくことはありませんか」
「現場に居た人間としては、もう別にありません。老婆心に申上げたいことは、あの現場附近を広く探すことですな。もしあの場合銃丸が乗客にあたらなかったとしたら、銃丸は窓外へ飛び出すだろうと思うんです。いや、そんな銃丸が既に沢山落ちているかもしれません。そんなものから犯人の手懸りが出ないかしらと思います。屍体もよく検べたいのですが、何か異変がありませんでしたか」
「いや、ありがとう御座いました」