海野十三 『電気看板の神経』 「すうちゃん。けさ、ふうちゃんが殺された時…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『電気看板の神経』

現代語化

「ねえ、すーちゃん。今朝、ふちゃんが殺されたの、何時頃だった?」
「わかんないけど、2時と3時の間だったらしいよ。どうしたの?」
「じゃ2時20分――あ、あれだ」
「すーちゃん、この店はヤバいよ。さっさと引っ越した方がいい。オレ、見たんだ。あのネオンの看板、2時20分。ふみが殺されたのと同じ時間、消えたんだ」
「オジ、知ってんだろ?言えよ。言えってば、全部、早く」
「いや、マジ怖ぇんだ。あの看板、ただの看板じゃねぇんだ。アレ、生きてるんだよ!人間の魂が宿ってるんだ」
「なに言ってるのよー。早く教えてよ、今朝、オジさんが見たこと……もしかして、今朝、この家へ来てたの?」
「アレはぶっ壊した方がいい。あの看板、いつもピンクのネオンで『カフェ・ネオン』って書いてるだろ?でもアレ、普通のネオンじゃねぇんだ。ずっと点きっぱなし。オレんちは遠くにあるんだけど、高台だから見えるんだよ。真っ赤な入れ墨みたいで、ずっと動かない。でも今朝は2時20分、一瞬消えたんだ。その後は元通りだったけど。停電なら他の電灯も消えるはずなのに、看板だけ消えた。2時20分、ふみが殺された時間。看板が消えた――ヤバくねぇ?アレ、殺されたの知ってて、オレに知らせたんだ。アレはぶっ壊さなきゃ」
「オジ、黙ってた方がいいよ」
「真蒼に」
「真っ蒼に」
「アレを言うと、オジさんに疑いがかかるよ。アタシ、全部知ってるんだ。春ちゃんとオジさんが、看板の点滅合図で逢瀬してたことも。春ちゃんのサインで、オジさんが裏階段から屋根裏に忍び込んでたでしょ?今はアタシとオジさんが同じことしてるけど。ムカつく。忘れないよ、春ちゃんが殺される日、アタシが屋根裏で隠れ見えてたこと。オジ、今の話したら大変なことになるよ。黙ってて」
「春ちゃんを殺したのは、オレじゃない。ふうちゃんも、オレじゃない」
「そんなこと聞いてないでしょ。うっとうしいなぁ。ここにはヤバイ奴がいるんだよ。人の血でも吸いそうな。わかるわ、畜生」
「知ってんの?人殺しをやった奴」

原文 (会話文抽出)

「すうちゃん。けさ、ふうちゃんが殺された時間は、いつ頃だったの」
「さあ、よくはわからないけど、二時と三時との間だという話よ。どうしてサ」
「じゃ二時二十分――たしかに、あれだ」
「すうちゃん、このカフェは呪われているんだよ、君も早くほかへ棲かえをするといい。僕は見たんだ。たしかに此の眼で見たんだ、しかも時刻は正に二時二十分――丁度ふみちゃんが殺された時間だ」
「オーさん。あんた知ってんの、言ってごらんなさい。言ってよ、なにもかも、さ早く」
「いや、怖ろしいことだ。君、このカフェ・ネオンの三階に懸かっている電気看板は、ただの電気看板じゃないんだぜ。あいつは生きてる! 本当だ、生きてる。あの電気看板には人間の魂がのりうつっているのに違いないんだ。きっと、あいつだ」
「なにを寝言みたいなことを言ってんのよ。早くおきかせなさいな、けさがた、あんたの見たということを……もしかしたら、オーさんは、けさがた此処の家へ……」
「あの電気看板は、早く壊してしまうがいいぞ。おい、すうちゃん、あの電気看板はいつも桃色の線でカフェ・ネオンという文字を画いている。あれは普通の仁丹広告塔のように、点いたり消えたり出来ない式のネオン・サインなのだ。そしてあの電気看板は毎晩、あのようにして点けっぱなしになっている。僕んちはここから十三丁も離れているが、高台に在るせいか、家の屋上からあのネオン・サインがよく見える。それは朱色の入墨のように、無気味で、ちっとも動かない。また動くわけがないのだ、それだのに、けさ方、二時二十分にあの電気看板が、ほんの一秒間ほどパッと消えちまったのだ。そのあとは又元のように点いていたが……。停電なら、外に点っている沢山の電燈も一緒に消えるはずじゃないか。ところが、パッと消えたのはここの電気看板だけさ。二時二十分にふみちゃんが殺される。電気看板がビクリと瞬く――気味がわるいじゃないか。僕は、はっきり言う。あの電気看板には神経があって、人間の殺されるのが判っていたのだ。そして僕にその変事を知らせたのに違いないんだ。あんな怖ろしい電気看板は、今日のうちに壊してしまわなくちゃいけない」
「オーさん、そのことは黙っていた方がいいことよ」
「真蒼に」
「蒼蒼に」
「その話はオーさんの挙動に、ある疑いを起させるばかりに役立つわ。あたいは、なにもかも知っているのよ。たとえば、死んだ春ちゃんとあんたが、密会の打合わせをあの電気看板の点滅でやっていたこともよく知ってるわ。さア今更驚くに当りやしない。春ちゃんは、毎晩十二時になると、あの電気看板のスイッチを切ったり入れたりして、電信のような信号をすると、ご自分の家の屋上でその信号を判断しては、その夜更け、ここのうちの裏梯子から三階の屋根裏の物置へあんたが忍んで来るのだったわネ。電気看板の信号なんかは使わないけれど、其外は丁度このごろ、あんたとあたいが繰りかえしている深夜のランデヴウみたいにネ。まあ、くやしい。どうして忘れるもんか、あの春ちゃんが殺される日、あたいは屋根裏の物置の中に鼠かなんかのように蠢めいている。あんた達を見せつけられて、あたし……。オーさん。今の話をすると、とんだ騒ぎができますよ。黙っているのよ、わかって」
「春ちゃんを殺したのは、僕じゃない。ふうちゃんを殺したのも、亦僕じゃないんだ」
「そんなことを訊いているんじゃないじゃないの。いやあなひとね。ここの中にはそりゃとても怖ろしい人が居るのよ。人間の生血でも啜りかねない人がネ。今にわかるわ、畜生」
「すうちゃんは、人殺しをやった奴を知っているのかい」


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