海野十三 『赤耀館事件の真相』 「笛吹川さんは、ほんとうに死んだの」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 海野十三 『赤耀館事件の真相』

現代語化

「笛吹川さんって、本当に死んだの?」
「本当でございます。もしお疑いでしたら、日暮里の火葬場か、画伯の骨を埋葬した今戸の瑞光寺にお尋ねになってみてください。でも、なぜ奥様はそんなことをおっしゃるんですか?」
「私、あの人が死んだ気がしないんです。あのパワフルな笛吹川さんが、そう簡単に死ぬなんて、変ですよね。ましてや心臓麻痺で急死なんて、おかしいですよ」
「おかしくても仕方ありません。画伯はもう骨になっています。それでも死んでないっておっしゃるんですか?」
「あなたの言う通りなら、死んでるんでしょうけど。でも私の直感を正直に言うと、笛吹川さんは死んでないか、殺されたに違いないんです。――あなたは何か知ってるんでしょう?」
「はい、少しばかり存じております」
「教えてください、全部」
「ではお話しします。まず第一に、笛吹川画伯が亡くなった時、奥様はどこにいらっしゃいましたか?」
「あんたは……。何を失礼なことを考えてるの? 私がどこにいたって、あんたに関係ないでしょ」
「失礼だとおっしゃるなら、私はこれ以上お聞きしません。でももし捜査課の警部たちが来て、奥様にこの質問をしたら、失礼だとだけでは追い返すことはできないでしょう。残念ながら、あの時間帯に奥様が現場にいたという証拠はないようですよ」
「……」
「第二に、ご主人が知らない笛吹川画伯と奥様との関係です。これも失礼に当たりますので、内容は申しません。第三に……」
「では麻雀大会のお客様は80名でお考えしておきましょう。場所は下の広間にしようと思います。卓はすぐに麻雀連盟に連絡して、他に何かお忘れはありませんか? では……」
「ねえ、最近勝見の様子が変じゃない?」
「笛吹川が死んだから、落ち込んでるんじゃないの?」
「そうかしら。一人きりの勝見を見ると、何か憑かれてるみたいなの。話してても、口調はハッキリしてるんだけど、どこか陰険なのよ。それに、勝見ってこんな顔だったかしらって思うこともあるの。あの目。今の勝見の目は、死人の肉を食べた人間の目みたいよ」
「それはまずいな。君は神経衰弱みたいだよ。ちゃんと休まないと……」
「神経衰弱かしら?……でも気持ち悪いんだもの。私だってあの人に食べられちゃうかもしれない」
「そんなこと言うなよ。だからこれから麻雀大会を定期的に開いて、大勢の人を呼ぶんだよ。そうすれば、親戚みたいに親しくなる人が何人かできるさ」
「勝見をクビにするわけにはいかないの?」
「うーん。そうでもないけど、時期がある。余計なことを言われたくないからね」
「私はもう、この家が大嫌い」

原文 (会話文抽出)

「笛吹川さんは、ほんとうに死んだの」
「本当でございます。お疑いならば日暮里の火葬場へお尋ね下さい。それから画伯の骨を埋めた今戸の瑞光寺へお聞き合わせ下さい。しかし何故、奥様はそんなことをおっしゃるのです」
「わたしには、あの人が死んだように思われないの。あの通りエネルギッシュな笛吹川さんが、そう簡単に死ぬもんですか。ことに心臓麻痺で頓死なんて、可笑しいわね」
「可笑しくても仕方がありません。画伯はもう骨になっています。それでも死んでいないとおっしゃるのですか」
「あんたの言うようなら、死んだのに違いないでしょう。しかしわたしの直感を正直に言ってしまえば、笛吹川さんは、死んでいないか、さもなければ、誰かに殺されたのに違いない。――あんたは何か知っているのでしょう」
「はい、私は二三のことを存じて居ります」
「言ってごらんなさい、なにもかも」
「では申しあげます。先ず第一に、笛吹川画伯の亡くなった時刻に、奥様は何処にいらっしゃいましたか?」
「まア、お前は……。何を失礼なことを考えているんです。わたしは、どこにいようと、余計なお世話です」
「失礼だとあれば、私は追窮はいたしますまい。しかし万一、捜査課の警部たちがひきかえして来て、奥様にこの質問をいたしたものと仮定しますと、唯失礼だと許りで追払うことは出来ますまい。不幸にもあの時刻に於ける奥様の現場不在証明は不可能でいらっしゃいましょう」
「……」
「第二には、旦那様のご存じないところの、笛吹川画伯と奥様との御交渉でございます。これも失礼と存じますので、内容は申しあげません。第三に……」
「では麻雀競技会にいらっしゃるお客様は、八十名と考えましてお仕度をいたしましょう。会場は階下の大広間を当てることにいたしましょう。卓の方は、早速、聯盟の事務所と打合せまして、ハイ、もう外に伺い落したことはございませんか。では……」
「あなた、このごろ勝見の様子が、どこか変じゃありませんこと?」
「笛吹川が亡くなったので、気を落しているのだろう」
「そうでしょうか。勝見が独りでいるところを横から見ていますと、何かに憑かれているようなんですよ。話をして見ても、言語のはっきりしている割合に、どことなく陰険なんです。それに勝見はこんな顔をしていたかしらと思うこともあるのです。あの眼。このごろの勝見の眼は、死人の腐肉を喰べた人間の眼ですよ」
「そりゃ、よくないね。君は神経衰弱にかかっているようだよ。養生しなくちゃ……」
「神経衰弱なんでしょうか?……でも気味が悪いんですもの。わたしもあの男に喰べられてしまうかも知れないわ」
「馬鹿なことを言っちゃいけない。だからこれからは、麻雀競技会を時々開いて大勢の人に来て貰うのさ。今に、親類のように親しくなる人が三人や四人は出来るよ」
「勝見に暇をやることはいけなくって?」
「ウム。いけないこともないが、時期がある。つまらないことを喋られてもいやだからな」
「私はもうこの館が、いやになったわ」


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