芥川龍之介 『或日の大石内蔵助』 「何か面白い話でもありましたか。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『或日の大石内蔵助』

現代語化

「なんか面白い話でもありましたか?」
「いや、いつもと同じくだらない話ばかりでした。ただ先ほど、近松が甚三郎のことを話した時は、伝右衛門さんとかは涙を浮かべて聞いてましたけど、それ以外は――あ、そう言えば面白い話がありました。我々が吉良殿を討ってから、江戸中で仇討ちもどきが流行ってるらしいんです」
「ははあ、それは意外ですね」
「さっきも似たような話を2つ3つ聞いてきたんですけど、中でも面白かったのが、南八丁堀の湊町あたりにあった話です。何でも最初は、あのあたりの米屋の旦那が、風呂屋で隣の紺屋の職人喧嘩をしたらしいんです。きっかけはどっちの湯が跳ねたとか何だとか、どうでもいいことだったんでしょう。それで結局、米屋の旦那の方が紺屋の職人に桶でボコボコにやられたんだそうです。すると米屋の丁稚が一人、それを恨みに思って、夜その職人が外に出るのを待ち伏せて、いきなり鉤を肩に打ち込んだって言うんですよ。それも「主人の仇、思い知れ!」って」
「それはひどい話ですね」
「職人の方は大怪我したみたいですが、それでも近所の評判は丁稚の方がいいって言うんだから、不思議でしょうがない。それ以外にも通町三丁目にも一つ、新麹町二丁目にも一つ、それから、もう一つはどこだったかな。とにかく、あちこちにあるそうなんです。それが全部、我々のまねだって言うんだから、面白くないですか」

原文 (会話文抽出)

「何か面白い話でもありましたか。」
「いえ。不相変の無駄話ばかりでございます。もっとも先刻、近松が甚三郎の話を致した時には、伝右衛門殿なぞも、眼に涙をためて、聞いて居られましたが、そのほかは――いや、そう云えば、面白い話がございました。我々が吉良殿を討取って以来、江戸中に何かと仇討じみた事が流行るそうでございます。」
「ははあ、それは思いもよりませんな。」
「今も似よりの話を二つ三つ聞いて来ましたが、中でも可笑しかったのは、南八丁堀の湊町辺にあった話です。何でも事の起りは、あの界隈の米屋の亭主が、風呂屋で、隣同志の紺屋の職人と喧嘩をしたのですな。どうせ起りは、湯がはねかったとか何とか云う、つまらない事からなのでしょう。そうして、その揚句に米屋の亭主の方が、紺屋の職人に桶で散々撲られたのだそうです。すると、米屋の丁稚が一人、それを遺恨に思って、暮方その職人の外へ出る所を待伏せて、いきなり鉤を向うの肩へ打ちこんだと云うじゃありませんか。それも「主人の讐、思い知れ」
「それはまた乱暴至極ですな。」
「職人の方は、大怪我をしたようです。それでも、近所の評判は、その丁稚の方が好いと云うのだから、不思議でしょう。そのほかまだその通町三丁目にも一つ、新麹町の二丁目にも一つ、それから、もう一つはどこでしたかな。とにかく、諸方にあるそうです。それが皆、我々の真似だそうだから、可笑しいじゃありませんか。」


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