芥川龍之介 『老いたる素戔嗚尊』 「幸ひ矢も見つかりました。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『老いたる素戔嗚尊』

現代語化

「運良く矢も見つかったみたい」
「ケガしなかった?」
「うん。完全に偶然で助かったんだ。あの火事が燃え移ってきたのは、まさに俺がこの赤い矢を拾った時だった。俺は煙の中をかいくぐりながら、とにかく火のついてない方向に必死で逃げていったけど、いくら焦っても、西風にあおられる火より早く走れるわけない……」
「そこでもうあきらめて死を受け入れることにしたんだ。走ってるうちにどういうわけか急に足元の土が崩れて、大きな穴に落ちたんだ。穴の中は最初は真っ暗だったけど、縁の枯れ草が燃え始めると、すぐに底まで明るくなった。見たら俺の周りに、何百匹もいる野ネズミが、土の色も見えないくらいひしめき合ってるんだ……」
「よかったですね、ネズミで。もしマムシだったら……」
「いや、ネズミだってバカじゃないよ。この赤い矢の羽根が全部ないのは、その時みんな食われたんだ。でも運良く火事は穴の外を焼き通って鎮火した」

原文 (会話文抽出)

「幸ひ矢も見つかりました。」
「よく怪我をしなかつたな?」
「ええ。全く偶然助かりました。あの火事が燃えて来たのは、丁度私がこの丹塗矢を拾ひ上げた時だつたのです。私は煙の中をくぐりながら、兎も角火のつかない方へ、一生懸命に逃げて行きましたが、いくらあせつて見た所が、到底西風に煽られる火よりも早くは走られません。……」
「そこでもう今度は焼け死ぬに違ひないと、覚悟をきめた時でした。走つてゐる内にどうしたはずみか、急に足もとの土が崩れると、大きな穴の中へ落ちこんだのです。穴の中は最初まつ暗でしたが、縁の枯草が燃えるやうになると、忽ち底まで明くなりました。見ると私のまはりには、何百匹とも知れない野鼠が、土の色も見えない程ひしめき合つてゐるのです……。」
「まあ、野鼠でよろしうございました。それが蝮ででもございましたら……」
「いや、野鼠でも莫迦にはなりません。この丹塗矢の羽根のないのは、その時みんな食はれたのです。が、仕合せと火事は何事もなく、穴の外を焼き通つてしまひました。」


青空文庫現代語化 Home リスト