GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『琴のそら音』
現代語化
「分からねえことばっかり書いてある本だよ」
「ひとりで笑ってんじゃねえよ、ちょっと読めよ」
「狸が人を化かすらしいんだけど、なんで狸が人を化かせるんだ?」
「へえ、変なの」
「俺が古木になったとき、源兵衛村の作蔵って奴が首つりしに来たんだけど……」
「え、狸がしゃべってんのかよ?」
「そうらしい」
「そんで、その本、狸が書いたのか?人をバカにしてるのか。で、続きは?」
「俺が腕を出したら、古褌をかけたんだよ。くせえくせえんだ……」
「狸のくせに贅沢だな」
「肥溜めの上にぶら下がろうとしたら、俺がわざと腕を下げてやったんだよ。そしたら作蔵、首つり損ねて慌てちゃってさ。俺、古木に戻って、デカい声で笑ったんだ。そしたら作蔵、ビビって褌置いて逃げちまったよ」
「すげえな。でも、作蔵の褌、狸が何に使うんだ?」
「たぶんタマタマ包むんだろ」
「面白えな、続き読めよ」
「世間じゃ俺が作蔵を化かしたって言うけど、それは違うよ。作蔵は化かされるのを待ってたんだ。俺が化かしてやったのはそのためだ。狸ってのは今で言う催眠術みたいなもので、昔からそれで人間を騙してきたんだ。西洋から伝ってきた術を催眠法とか呼んで、インチキ医者が先生先生って崇められてるけど、俺はバカバカしくてならないね。日本にだっていい術があるのに、何でも西洋西洋って崇めるのはおかしいよ。日本人は狸をなめすぎてるよ。全国の狸を代表して反省を促しておくよ」
「理屈っぽい狸だな」
「狸が言ってる通りだよ。昔も今も、自分がしっかりしてりゃ化かされたりしないんだからな」
原文 (会話文抽出)
「何だか長い名だ、とにかく食道楽じゃねえ。鎌さん一体これゃ何の本だい」
「何だか、訳の分らないような、とぼけた事が書いてある本だがね」
「一人で笑っていねえで少し読んで聞かせねえ」
「狸が人を婆化すと云いやすけれど、何で狸が婆化しやしょう。ありゃみんな催眠術でげす……」
「なるほど妙な本だね」
「拙が一返古榎になった事がありやす、ところへ源兵衛村の作蔵と云う若い衆が首を縊りに来やした……」
「何だい狸が何か云ってるのか」
「どうもそうらしいね」
「それじゃ狸のこせえた本じゃねえか――人を馬鹿にしやがる――それから?」
「拙が腕をニューと出している所へ古褌を懸けやした――随分臭うげしたよ――……」
「狸の癖にいやに贅沢を云うぜ」
「肥桶を台にしてぶらりと下がる途端拙はわざと腕をぐにゃりと卸ろしてやりやしたので作蔵君は首を縊り損ってまごまごしておりやす。ここだと思いやしたから急に榎の姿を隠してアハハハハと源兵衛村中へ響くほどな大きな声で笑ったやりやした。すると作蔵君はよほど仰天したと見えやして助けてくれ、助けてくれと褌を置去りにして一生懸命に逃げ出しやした……」
「こいつあ旨え、しかし狸が作蔵の褌をとって何にするだろう」
「大方睾丸でもつつむ気だろう」
「面白え、あとを読みねえ」
「俗人は拙が作蔵を婆化したように云う奴でげすが、そりゃちと無理でげしょう。作蔵君は婆化されよう、婆化されようとして源兵衛村をのそのそしているのでげす。その婆化されようと云う作蔵君の御注文に応じて拙がちょっと婆化して上げたまでの事でげす。すべて狸一派のやり口は今日開業医の用いておりやす催眠術でげして、昔からこの手でだいぶ大方の諸君子をごまかしたものでげす。西洋の狸から直伝に輸入致した術を催眠法とか唱え、これを応用する連中を先生などと崇めるのは全く西洋心酔の結果で拙などはひそかに慨嘆の至に堪えんくらいのものでげす。何も日本固有の奇術が現に伝っているのに、一も西洋二も西洋と騒がんでもの事でげしょう。今の日本人はちと狸を軽蔑し過ぎるように思われやすからちょっと全国の狸共に代って拙から諸君に反省を希望して置きやしょう」
「いやに理窟を云う狸だぜ」
「全く狸の言う通だよ、昔だって今だって、こっちがしっかりしていりゃ婆化されるなんて事はねえんだからな」