夏目漱石 『琴のそら音』 「どうなさいました」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『琴のそら音』

現代語化

「どうなさいましたか?」
「どうしたって、別にどうってことないよ。ただ雨に濡れただけのことさ」
「いや、あの顔色は普通の顔色じゃありません」
「お前の方がどうかしちゃったんじゃないか。さっきからちょっと言い争いしてたみたいだったぜ」
「何を言われても構いません。――でも旦那様、雑談じゃありませんよ」
「え?」
「どうしたの。留守中何かあったの?四谷から病気のことでも何か言ってきたのか?」
「それご覧なさい、そんなに娘さんのことを心配していらっしゃるのに」
「何を言ってきたの。手紙が来たの?それとも使いが来たの?」
「手紙も使いも来ておりません」
「それじゃ電報か」
「電報なんて来ておりません」
「それじゃ、どうしたの――早く教えて」
「今夜は鳴き方が違いますよ」
「何が?」
「何がって、あなた。どうも夕方から心配でたまりませんでした。どう考えても普通じゃないんです」
「何がだよ。それだから早く教えてって言ってるじゃないか」
「先日お伝えした犬のことです」
「犬?」
「ええ、遠吠えをしています。私が言った通りにしていれば、こんなことにはならなかったのに、あなたが婆さんの迷信だなんて、あんまり人を馬鹿にするのもいい加減にして……」
「こんなことにもあんなことにも、まだ何も起こってないじゃないか」
「いえ、そうじゃありません。旦那様だって帰り道は娘さんの病気のことを考えていらっしゃったに違いありません」

原文 (会話文抽出)

「どうなさいました」
「どうするって、別段どうもせんさ。ただ雨に濡れただけの事さ」
「いえあの御顔色はただの御色では御座いません」
「御前の方がどうかしたんだろう。先ッきは少し歯の根が合わないようだったぜ」
「私は何と旦那様から冷かされても構いません。――しかし旦那様雑談事じゃ御座いませんよ」
「え?」
「どうした。留守中何かあったのか。四谷から病人の事でも何か云って来たのか」
「それ御覧遊ばせ、そんなに御嬢様の事を心配していらっしゃる癖に」
「何と云って来た。手紙が来たのか、使が来たのか」
「手紙も使も参りは致しません」
「それじゃ電報か」
「電報なんて参りは致しません」
「それじゃ、どうした――早く聞かせろ」
「今夜は鳴き方が違いますよ」
「何が?」
「何がって、あなた、どうも宵から心配で堪りませんでした。どうしてもただごとじゃ御座いません」
「何がさ。それだから早く聞かせろと云ってるじゃないか」
「せんだって中から申し上げた犬で御座います」
「犬?」
「ええ、遠吠で御座います。私が申し上げた通りに遊ばせば、こんな事にはならないで済んだんで御座いますのに、あなたが婆さんの迷信だなんて、あんまり人を馬鹿に遊ばすものですから……」
「こんな事にもあんな事にも、まだ何にも起らないじゃないか」
「いえ、そうでは御座いません、旦那様も御帰り遊ばす途中御嬢様の御病気の事を考えていらしったに相違御座いません」


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