夏目漱石 『琴のそら音』 「婆さんが云うには、あの鳴き声はただの鳴き…

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青空文庫図書カード: 夏目漱石 『琴のそら音』

現代語化

「婆さんが言うには、あの鳴き声はただの鳴き声じゃない。この辺に何か変なものがあるに違いないから気をつけなきゃいけないって言うんだ。でも気をつけろって言われても、別に気をつける手立てもないからほっといておけばいいんだけど、うるさいのは困ったもんだ」
「そんなに鳴き立てるのか?」
「いや、犬はうるさくも何ともないよ。何より俺は大の字で寝てるから、いつどんなに吠えてるのか全然知らないくらいだ。でも婆さんの訴えは俺が起きてる時を選んで来るから面倒なんだ」
「なるほど、いくら婆さんでもお前が寝てる時に『お気を付け遊ばせ』とは言わないよな」
「それに加えて俺の将来の嫁さんが風邪を引いたんだ。ちょうど婆さんの都合のいいように事件が重なったからたまらない」
「それでも宇野のお嬢さんはまだ四谷にいるんだから、心配する必要ないんじゃないか?」
「それを心配するから迷信深い婆さんなんだよ。『あなたが引っ越さないとお嬢様の病気が早く治りませんから、ぜひ今月のうちに方角のいいところに引っ越してください』って言うんだ。とんでもない予言者に出くわして、迷惑千万だ」
「引っ越すのも悪くないかもよ」
「ばかなこと言うなよ。こないだ引っ越したばっかりじゃないか。そんなに何度も引っ越ししたら破産するだけだ」
「でも病気の人は大丈夫かい?」
「お前まで変なことを言うなよ。ちょっと伝通院の坊主に影響されすぎたんじゃないか。そんなに人を怖がらせるなよ」
「怖がらせてるんじゃない、大丈夫かと聞いてるんだ。俺だって君の嫁さんのことを心配してるつもりなんだよ」
「大丈夫に決まってるよ。咳はちょっと出るけどインフルエンザなんだ」
「インフルエンザ?」
「よく覚えておいてくれ」

原文 (会話文抽出)

「婆さんが云うには、あの鳴き声はただの鳴き声ではない、何でもこの辺に変があるに相違ないから用心しなくてはいかんと云うのさ。しかし用心をしろと云ったって別段用心の仕様もないから打ち遣って置くから構わないが、うるさいには閉口だ」
「そんなに鳴き立てるのかい」
「なに犬はうるさくも何ともないさ。第一僕はぐうぐう寝てしまうから、いつどんなに吠えるのか全く知らんくらいさ。しかし婆さんの訴えは僕の起きている時を択んで来るから面倒だね」
「なるほどいかに婆さんでも君の寝ている時をよって御気を御つけ遊ばせとも云うまい」
「ところへもって来て僕の未来の細君が風邪を引いたんだね。ちょうど婆さんの御誂え通りに事件が輻輳したからたまらない」
「それでも宇野の御嬢さんはまだ四谷にいるんだから心配せんでもよさそうなものだ」
「それを心配するから迷信婆々さ、あなたが御移りにならんと御嬢様の御病気がはやく御全快になりませんから是非この月中に方角のいい所へ御転宅遊ばせと云う訳さ。飛んだ預言者に捕まって、大迷惑だ」
「移るのもいいかも知れんよ」
「馬鹿あ言ってら、この間越したばかりだね。そんなにたびたび引越しをしたら身代限をするばかりだ」
「しかし病人は大丈夫かい」
「君まで妙な事を言うぜ。少々伝通院の坊主にかぶれて来たんじゃないか。そんなに人を威嚇かすもんじゃない」
「威嚇かすんじゃない、大丈夫かと聞くんだ。これでも君の妻君の身の上を心配したつもりなんだよ」
「大丈夫にきまってるさ。咳嗽は少し出るがインフルエンザなんだもの」
「インフルエンザ?」
「よく注意したまえ」


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