夏目漱石 『琴のそら音』 「とにかく旧弊な婆さんだな」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『琴のそら音』

現代語化

「とにかく頑固な婆さんだな」
「頑固ってより迷信深い婆さんだよ。月に2、3回は伝通院辺の何ていうか坊主のところへ相談に行ってるみたいだ」
「親戚に坊主がいるのかい?」
「いや、その坊主はお金を払って占ってもらってるんだ。その坊主がまた余計なことばかり言うから始末が悪い。実際に俺が家を買うときも鬼門だとか八方塞がりだとか言って、すごく困らせたよ」
「でも家に住んでからこの婆さんを雇ったんだろう?」
「雇ったのは引っ越しの時だけど、約束は前からしてたんだ。実はあの婆さんも四谷の宇野の世話で、これなら信頼できるから独りで留守番をさせても心配ないって母さんが言うから決めたんだ」
「それじゃお前の将来の嫁さんの御母さんの推薦で人選びに任せた婆さんだから大丈夫なんだろう」
「人間的には問題ないんだけど、迷信には驚いたよ。引っ越しの3日前とかに例の坊主のところに行って占ってもらったんだって。そしたら坊主が今本郷から小石川の方に向かって引っ越すのはすごくまずい、きっと家に不幸があるとと言ったんだがね。――余計なことじゃないか、坊主のくせにそんな知ったかぶった妄言を言うなよ」
「でもそれが商売なんだからしょうがないよ」
「商売なら許すから、金だけもらって当たり障りのないことをぺらぺらしゃべってればいいよ」
「お前が怒っても俺のせいじゃないんだから仕方がないよ」
「その上、若い女に祟ると落ちをつけたんだ。さて婆さん驚くまいことか、俺の家で若い女と言えば近いうちに貰う予定の宇野の娘に違いないと自分で解釈して独りで心配してるんだ」
「でも、まだお前のところへは来てないんだろう?」
「来てないのに心配するから余計なお世話だよ」
「なんだか冗談なのか本気なのか分からなくなってきたぞ」
「全く会話にもならないよ。ところで最近、俺の家の近所で野良犬が遠吠えしてるんだ……」
「犬の遠吠えと婆さんとは何か関係があるのかい。俺には想像もつかないな」

原文 (会話文抽出)

「とにかく旧弊な婆さんだな」
「旧弊はとくに卒業して迷信婆々さ。何でも月に二三返は伝通院辺の何とか云う坊主の所へ相談に行く様子だ」
「親類に坊主でもあるのかい」
「なに坊主が小遣取りに占いをやるんだがね。その坊主がまた余計な事ばかり言うもんだから始末に行かないのさ。現に僕が家を持つ時なども鬼門だとか八方塞りだとか云って大に弱らしたもんだ」
「だって家を持ってからその婆さんを雇ったんだろう」
「雇ったのは引き越す時だが約束は前からして置いたのだからね。実はあの婆々も四谷の宇野の世話で、これなら大丈夫だ独りで留守をさせても心配はないと母が云うからきめた訳さ」
「それなら君の未来の妻君の御母さんの御眼鏡で人撰に預った婆さんだからたしかなもんだろう」
「人間はたしかに相違ないが迷信には驚いた。何でも引き越すと云う三日前に例の坊主の所へ行って見て貰ったんだそうだ。すると坊主が今本郷から小石川の方へ向いて動くのははなはだよくない、きっと家内に不幸があると云ったんだがね。――余計な事じゃないか、何も坊主の癖にそんな知った風な妄言を吐かんでもの事だあね」
「しかしそれが商売だからしようがない」
「商売なら勘弁してやるから、金だけ貰って当り障りのない事を喋舌るがいいや」
「そう怒っても僕の咎じゃないんだから埓はあかんよ」
「その上若い女に祟ると御負けを附加したんだ。さあ婆さん驚くまい事か、僕のうちに若い女があるとすれば近い内貰うはずの宇野の娘に相違ないと自分で見解を下して独りで心配しているのさ」
「だって、まだ君の所へは来んのだろう」
「来んうちから心配をするから取越苦労さ」
「何だか洒落か真面目か分らなくなって来たぜ」
「まるで御話にも何もなりゃしない。ところで近頃僕の家の近辺で野良犬が遠吠をやり出したんだ。……」
「犬の遠吠と婆さんとは何か関係があるのかい。僕には聯想さえ浮ばんが」


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