GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『琴のそら音』
現代語化
「そうだったな、つい忘れてた。どうだい新居の暮らしは。一軒家を持つと自分から主人の気分になれたか?」
「別に主人の気分にはなってないよ。やっぱり下宿の方が気楽で良かったみたいだ。あれでも全部整ったら主人の気分とか特別な気分になれるのかなぁ。でも、真鍮の薬缶で湯を沸かしたり、ブリキの金盥で顔を洗ってるうちは主人らしくないもんな」
「それでも主人だよ。これが自分のうちだって思えば、何かと楽しいだろう。所有ってものと愛着ってのは、たいていの場合一緒に付いてくるのが普通だから」
「自分の家だって思えばどうか知らないけど、俺の家だなんて全然思いたくないんだからね。名前だけなら確かに主人だよ。だから玄関にも俺の名刺は貼っといたけど。家賃7円50銭の主人なんてもんは、立派な主人じゃないよ。主人の中の属官みたいなもんさ。主人になるんなら勅任主人か、少なくとも奏任主人になるくらいの気分でないと楽しくないよ。下宿の時よりただ面倒が増えただけだ」
原文 (会話文抽出)
「僕も気楽に幽霊でも研究して見たいが、――どうも毎日芝から小石川の奥まで帰るのだから研究は愚か、自分が幽霊になりそうなくらいさ、考えると心細くなってしまう」
「そうだったね、つい忘れていた。どうだい新世帯の味は。一戸を構えると自から主人らしい心持がするかね」
「あんまり主人らしい心持もしないさ。やっぱり下宿の方が気楽でいいようだ。あれでも万事整頓していたら旦那の心持と云う特別な心持になれるかも知れんが、何しろ真鍮の薬缶で湯を沸かしたり、ブリッキの金盥で顔を洗ってる内は主人らしくないからな」
「それでも主人さ。これが俺のうちだと思えば何となく愉快だろう。所有と云う事と愛惜という事は大抵の場合において伴なうのが原則だから」
「俺の家だと思えばどうか知らんが、てんで俺の家だと思いたくないんだからね。そりゃ名前だけは主人に違いないさ。だから門口にも僕の名刺だけは張り付けて置いたがね。七円五十銭の家賃の主人なんざあ、主人にしたところが見事な主人じゃない。主人中の属官なるものだあね。主人になるなら勅任主人か少なくとも奏任主人にならなくっちゃ愉快はないさ。ただ下宿の時分より面倒が殖えるばかりだ」