森鴎外 『寒山拾得』 「当寺に豊干という僧がおられましたか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 森鴎外 『寒山拾得』

現代語化

「このお寺に豊干って僧はいませんでしたか?」
「豊干ですか。それは少し前まで、本堂の後ろの僧院にいましたが、行脚に出たきり、帰ってきてません」
「このお寺では何をしていたんですか?」
「はい。僧侶たちの食べる米をついていました」
「へぇ。それで何か他の僧侶たちと変わったことはなかったんですか?」
「いや、それがあったんです。最初は怠けず、親切な同宿だと思ってた豊干さんを、私たちは大事にするようになりました。するとある日突然出かけて行ってしまったんです」
「それはどうしてですか?」
「全く不思議なことでして。ある日山から虎に乗って帰って来たんです。そしてそのまま廊下に入っていって、虎の背中で詩を詠んで歩きました。とにかく詩を詠むのが好きで、裏の僧院でも、夜になると詩を詠んでいました」
「へぇ。生きている阿羅漢ですね。その僧院の跡はどうなってますか?」
「今は空き家になってますが、時々夜になると、虎が来て吼えてます」
「それならお手数ですが、そこへ案内してください」

原文 (会話文抽出)

「当寺に豊干という僧がおられましたか」
「豊干とおっしゃいますか。それはさきころまで、本堂の背後の僧院におられましたが、行脚に出られたきり、帰られませぬ」
「当寺ではどういうことをしておられましたか」
「さようでございます。僧どもの食べる米を舂いておられました」
「はあ。そして何かほかの僧たちと変ったことはなかったのですか」
「いえ。それがございましたので、初めただ骨惜しみをしない、親切な同宿だと存じていました豊干さんを、わたくしどもが大切にいたすようになりました。するとある日ふいと出て行ってしまわれました」
「それはどういうことがあったのですか」
「全く不思議なことでございました。ある日山から虎に騎って帰って参られたのでございます。そしてそのまま廊下へはいって、虎の背で詩を吟じて歩かれました。一体詩を吟ずることの好きな人で、裏の僧院でも、夜になると詩を吟ぜられました」
「はあ。活きた阿羅漢ですな。その僧院の址はどうなっていますか」
「只今もあき家になっておりますが、折り折り夜になると、虎が参って吼えております」
「そんならご苦労ながら、そこへご案内を願いましょう」


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