岡本綺堂 『半七捕物帳』 「さあ、もう帰ろうか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「さぁ、もう帰ろうか」
「もう撤退しますか?」
「いつまで化け物屋敷の番をしていても仕方ないよ。日が暮れると、また一つ目小僧が出るかもしれない」
「おい、松。これは何か知ってるか?」
「へぇ。こんなものを……。これは按摩の笛じゃないですか」
「むむ。台所の土間に米の空き俵が1つ転がってた。その下から出てきたんだ。裕福でも貧乏でも旗本の屋敷で、流しの按摩を呼び入れるはずがない。あんなところに、どうして按摩の笛が落ちてたのか。考えてみろよ」
「なるほどね」
「これで一つ目小僧の正体は分かったよ」
「最初は片目を何かで隠してるのかと思ってたけど、この笛を見つけたので考えが変わった。松吉や他の手下どもに命じて、江戸中に片目の小按摩が何人いるかを調べさせると、さすがは江戸で片目の按摩が7人いたよ。その中で肩上げのある者の身元を調べると、入谷の長屋にいる周悦って14歳の小按摩が怪しい。こいつは子供の頃にいたずらをして竹きれで目を突いたので、片目塞がってるけど按摩になって、24文で流して歩いてるうちに、馬道のげた屋にたびたび呼び込まれて仲良くなったんだ。そこのご主人が悪い奴で、この小按摩をうまく騙し込んで、治療に行った家のものを片っ端から盗んで、自分が安く買い取ってたんだ。そのうち、このご主人が悪御家人と組んで、空き屋敷を仕事場にすることになったんだけど、自分の近所だとバレる心配があるから、いつも遠い山の手に行って仕事してた」
「その按摩も仲間ってことですか?」
「でもそれまでは、相手を玄関に待たせておいて、その品物を裏門から持ち逃げしたり、相手がなかなか油断しないと、奥に通して腕ずくで脅したりしてたけど、人間って不思議なものだな。いくら悪党でも同じ手口を繰り返していると、飽きてくるみたいで、相談の上で新しい手口を考えたのがこの怪談騒ぎなんだ。げた屋のアイディアで、それにはこの一つ目小僧の按摩が必要だって話したら、みんなも面白がって、小按摩の周悦をげた屋がうまく説得して、仲間にすることになったんだ。でもその周悦って奴は今は立派な不良少年になってるんだって。それも面白がってすぐ同意したんだって。本人は口がちょっと大きい奴だから、そこからアイデアが浮かんできて、絵の具で口を割いたり、象牙の箸を牙にしたりしたんだけど、周悦の家にはお母さんがいるんだ。そのお母さんの前では、世間の前では、化け物の格好で家を出るわけにはいかないから、やはり商売に出かけるような感じで、杖をついて、笛を吹いて、いつものように家を出たんだ。あそこの空き屋敷の台所の六畳を楽屋にして、そこで化け物に成り切ってたんだ。その時に周悦は懐に入れてた笛を落としたんだけど、あとで気がついたのにどこで落としたか分からなくて、そのままにしてたのを運悪く俺が見つけたんだ。そこからいろいろ調べると、この小按摩は歳の割に金遣いが荒い。近所の評判も悪い。だから連れて行って調べると、子供だから仕方ないよね。ちょっと脅したら、全部正直に自白しちゃった」
「となると、例のげた屋と御家人と、小按摩の周悦と……。他に仲間はいませんでしたか?」
「げた屋は藤助って奴で、これは用人に化けてた。主人になったのはヌカ目三五郎って御家人、草履取りは渡りの仲買人の権平って奴で、これだけは本物だ。そのほかにも馬淵金八って浪人が加わってた。周悦はあれ以来、たった1度だけあの一つ目小僧をやっただけで、本人はすごく面白がって、また何かで使ってくれとげた屋に頼んでたんだって。とにかく、一つ目小僧を突き止めたおかげですべてがバレて、他の奴らも片っ端から全員捕まっちゃいました。つまらない怪談をしなければ、もう少し長生きできたかもしれないけど、彼らにとっては不運、世の中にとっては幸運でした」

原文 (会話文抽出)

「さあ、もう帰ろうか」
「もう引き揚げますかえ」
「いつまで化け物屋敷の番をしていてもしようがねえ。日が暮れると、また一つ目小僧が出るかも知れねえ」
「おい、松。これはなんだか知っているか」
「へえ。こんなものを……。こりゃあ按摩の笛じゃありませんかえ」
「むむ。台所の土間に米のあき俵が一つ転がっていた。その下から出たのよ。痩せても枯れても旗本の屋敷で、流しの按摩を呼び込みゃあしめえ。あんなところに、どうして按摩の笛が落ちていたのか。おめえ、考えてみろ」
「なるほどね」
「これで一つ目小僧の正体はわかりましたよ」
「初めは片目をなにかで隠しているのかと思いましたが、この笛を拾ったので又かんがえが変りました。松吉やほかの子分どもに云いつけて、江戸じゅうに片目の小按摩が幾人いるかを調べさせると、さすがは江戸で片目の按摩が七人いましたよ。そのなかで肩あげのある者四人の身許を探索すると、入谷の長屋にいる周悦という今年十四歳の小按摩がおかしい。こいつは子供の時にいたずらをして、竹きれで眼を突き潰したので、片目あいていながら按摩になって、二十四文と流して歩いているうちに、馬道の下駄屋へたびたび呼び込まれて懇意になると、そこの亭主が悪い奴で、この小按摩を巧くだまし込んで、療治に行った家の物を手あたり次第にぬすませて、自分が廉く買っていたんです。そのうちに、この亭主が悪御家人と共謀して、あき屋敷を仕事場にすることになったんですが、自分の近所は感付かれる懸念があるので、いつも遠い山の手へ行って仕事をしていました」
「その按摩も同類なんですね」
「しかし今までは、相手を玄関に待たせて置いて、その品物を裏門から持ち逃げしたり、相手がなかなか油断しないとみると、奥へ通して腕ずくで脅迫したりしていたんですが、人間というものは奇体なもので、いくら悪党でも同じ手段をくりかえしていると、自然に飽きて来るとみえて、相談の上で更に新手をかんがえ出したのが怪談がかりの一件です。下駄屋の発案で、それにはこういう一つ目小僧の按摩がいるというと、それは妙だとみんなも喜んで、小按摩の周悦には下駄屋から巧く説得して、自分たちの味方にすることになったんですが、その周悦という奴は今では立派な不良少年になっているので、これも面白がってすぐ同意したというわけです。自体口が少し大きい奴なので、それから思いついて、絵の具で口を割ったり、象牙の箸を牙にこしらえたりしたんですが、周悦の家にはおふくろがあります。そのおふくろの手前、世間の手前、化け物のこしらえで家を出るわけには行きませんから、やはり商売に出るようなふうをして、杖をついて、笛をふいて、いつもの通りに家を出て、かの空屋敷の台所の六畳を楽屋にして、そこですっかり化けおおせた次第です。その時に周悦はふところに入れていた笛をおとしたのを、あとになって気がついたんですが、どこで落としたか判らないので、ついそのままにして置いたのを、運悪くわたくしに見つけられたんです。それからだんだん調べてみると、この小按摩は年に似合わず銭使いがあらい。近所の評判もよくない。そこで引き挙げて吟味すると、なんと云ってもそこは子供で、一つ責めると、みんな正直に白状してしまいました」
「そうすると、その下駄屋と御家人と、小按摩の周悦と……。まだほかにも仲間がありましたか」
「下駄屋は藤助という奴で、これは用人に化けていました。主人になったのは糠目三五郎という御家人、草履取りは渡り中間の権平という奴で、これだけは本物です。そのほかに馬淵金八という浪人が加わっていました。周悦はあとにも先にもたった一度、その一つ目小僧を勤めただけですが、当人はひどく面白がって、又なにかの役に使ってくれと、しきりに下駄屋をせびっていたそうです。なにしろ、一つ目小僧をさがしあてたので、それから口があいて、ほかの奴らも片っ端からみんな御用になってしまいました。つまらない怪談をやらなければ、もうちっと寿命があったかも知れないんですが、そいつらに取っては不仕合わせ、世間に取っては仕合わせでした」


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