岡本綺堂 『半七捕物帳』 「親分、又いろいろのことが出来しました」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「親分、またいろいろありました」
「与七さんか。早朝からどうした?まぁ、こっちに上がって話をしな」
「いや、落ち着いてられないんです」
「昨日の午後11時から、今朝午前4時くらいの間に、うちのお浪って女が駆け落ちしてしまいました」
「お浪ってどんな女だ?」
「お駒の次で、三枚目やってる女です。普段から席争いでお駒とはあまり仲がよくなかったようですが、お駒の方が柳に受けてるので、特に揉め事もなくって。そのお浪が急に姿を消したので何かあるだろうから、とりあえず親分に報告しろと主人が申しましたので……。あともう一つおかしいのは、主人がちゃんと預かっていたはずの張子の虎が、どこかに消えてしまったんです。いや、張子の虎が自分から歩けるわけはないんですけど、誰が持ち出したのか、影も形もなくなってしまったんです」
「そもそもどこにしまってあったんだ?」
「他の品とは違って、まぁ、早く言えばお駒の形見みたいなものなんで、仏壇に入れておいたそうです」
「仏壇か。悪いところに置いておいたもんだ」
「まぁ、仕方がないんですが。それで、それはいつ頃なくなったんだ?」
「それが分からないんです。とにかく昨日の夕方までは確かにあったって言うんですから、その後になくなったことは確かです」
「なるほど」
「それで、そのお浪って女は悪い足でもあるのか?」
「どうにも確かな見当がつかないんですが、普段からちょっと病気で、仕事が嫌だとよく言っていました。でもこのタイミングで、しかも張子の虎がなくなったもんで、なんかそこがおかしいんですよね……」
「全くおかしい。何かわけがありそうだ。他に紛失物はないのか?」
「他に何もないようです」
「よし、分かった。それもなんとか手配してやるから、主人にそう伝えてくれ」
「何卒、よろしくお願いします」

原文 (会話文抽出)

「親分、又いろいろのことが出来しました」
「与七さんか。早朝からどうしたんだ。まあ、こっちへあがって話しなせえ」
「いえ、落ち着いちゃあいられないんです」
「ゆうべの引け四ツから、けさの七ツ(午前四時)頃までのあいだに、家のお浪というのが駈け落ちをしてしまったんです」
「お浪というのはどんな女だ」
「お駒の次で、三枚目を張っている女です。ふだんから席争いでお駒とはあんまり折り合いがよくなかったようですが、お駒の方が柳に受けているので、別にこうという揉め捫著も起らなかったんです。そのお浪が急に姿をかくしたには何か訳があるんだろうから、とりあえず親分にお報らせ申せと主人が申しましたので……。それにもう一つおかしいことは、主人が確かにおあずかり申した筈の張子の虎、あれも何処へか行ってしまったんです。いや、張子の虎が自然にあるき出す筈はないんですが、誰が持ち出したものか、影も形もなくなってしまったんです」
「一体どこへしまって置いたんだろう」
「ほかの品と違って、まあ、早く云えばお駒の形見のようなものだというので、御仏壇に入れて置いたんだそうです」
「仏壇か。悪いところへ入れて置いたものだ」
「が、まあ仕方がねえ。そこで、それはいつ頃なくなったんだ」
「それが判らないんです。なにしろきのうの夕方までは確かにあったというんですから、その後になくなったものに相違ないんです」
「なるほど」
「そこで、そのお浪という女には悪い足でもあるのかえ」
「どうも確かな見当が付かないんですが、ふだんから少し病身の女で、勤めがいやだと口癖に云っていました。けれども時が時で、おまけに張子の虎がなくなっているもんですから、なんだかそこがおかしいので……」
「まったくおかしい、なにか訳がありそうだ。ほかにはなんにも紛失物はないんだね」
「ほかには何もないようです」
「よし、判った。それもなんとか手繰り出してやろうから、主人によくそう云ってくれ」
「なにぶん願います」


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