国木田独歩 『号外』 「けれども、だめだ、もうだめだ、もう戦争は…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 国木田独歩 『号外』

現代語化

「でもダメだ、もうダメだ。もう戦争は終わっちまった。古い号外を読むと、急に歳を取ったような気がする。もう何もやる気しねえ……」
「最高、最高!そこを彫るんです、そこですよ。なるほど号外の題って面白い。なるほど加藤君は号外だ。人間そのものの号外だ。号外を読む人間としての号外だ」
「それはどういうこと?」
「号外を前に置いて、ガッカリしてる君の姿を彫るってことですよ」
「それはダメです。そんな面白みもないところは勘弁してもらいます」
「連合艦隊、敵艦発見の報に接し、ただちに出動して撃滅す。本日、天候晴朗なれど波高し――ここをやってください。この号外を読むと、たまらなく嬉しくなるんですよ――ぜひここを彫ってくださいな」
「それじゃ、君に限ったことじゃないよ。今の公報を読めば誰でも嬉しい。それを読んで嬉しい気持ちになるなんて、ありきたりなことで、わざわざこの大先生に頼む必要はないんじゃないのかなぁ」
「なんで?これはおかしい。なんでですか?」
「君が号外から縁がなくなって、ガッカリしてる姿が、君らしさじゃないか」
「確かにそうだ」
「それじゃ、みんなは全然ガッカリしてないのか?」
「どうだろう?満谷君」
「そうですねぇ、完全にガッカリしてないわけでもないと思いますよ。だって、戦争中はみんなで国家の大事だから、それを常に頭に置いて喜び悲しんでたんですから。それが終わっちゃったんで、気抜けした気分になってるのは確かでしょう。それをガッカリといえばガッカリでしょう」
「ほら見ろ。僕だけじゃない、ガッカリしてるのなんて絶対僕だけじゃない。だから、喜んでる姿を彫るのがありきたりなら、ガッカリしてる姿だってありきたりだろ。どうですか、中倉の大先生?」
「加と男」
「だって君みたいな人もいないですよ。君にとって号外が出ないと生きてる価値がなくなるってわけでしょう?」
「じゃ、僕がガッカリの代表ってことか?」
「だから君は僕たちの号外なんだよ」
「さすが、中倉大先生様だ。素晴らしい。ガッカリした姿を、ぜひお願いします。題して『号外』。最高、最高!」

原文 (会話文抽出)

「けれども、だめだ、もうだめだ、もう戦争はやんじゃった、古い号外を読むと、なんだか急に年をとってしまって、生涯がおしまいになったような気がする、……」
「妙、妙、そこを彫るのだ、そこだ、なるほど号外の題はおもしろい、なるほど加藤君は号外だ、人間の号外だ、号外を読む人間の号外だ」
「そこと言うのは」
「そことは君が号外を前へ置いてひどくがっかりしているところだ」
「それはいけない、そんな気のきかないところは御免をこうむる。――」
「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直ちに出動これを撃滅せんとす、本日天候晴朗なれども波高し――ここを願います、僕はこの号外を読むとたまらなくうれしくなるのだから――ぜひここをやってくださいな。」
「それじゃア、君に限った事はない。だれでも今の公報を読めば愉快だ、それを読んで愉快な気持ちになっておるところなら平凡な事で、別にこの大先生を煩わすに及ぶまいハヽヽヽヽ」
「なぜだ、これはおかしい、なぜです。」
「号外から縁がなくなって、君ががっかりしておるところが君の君たるところじゃアないか。」
「大いにしかりだ」
「それじゃア諸君は少しもがっかりしないのか」
「どうだろう? 満谷君、」
「そうですねえ、まるきりがっかりしないでもないだろうと思う、というわけは、戦争最中はお互いにだれでも国家の大事だから、朝夕これを念頭に置いて喜憂したのが、それがおやめになったのだから、気抜けの体にちょっとだれもなったに相違ない、それをがっかりと言えばがっかりでしょう。」
「そら見たまえ、僕ばかりじゃアない、決してない、だから、喜んでいるところを彫るのが平凡ならばだ、がっかりしているところだって平凡だろう、どうですね、中倉の大先生、」
「加と男」
「だって君のようなのもない、君は号外が出ないと生きている張り合いがないという次第じゃアないか。」
「じゃア僕ががっかりの総代というのか」
「だから君はわれわれの号外だ。」
「さすが、中倉大先生様だ、大いによかろう、がっかりしたところ、大いによかろう、ぜひ願います、題して号外、妙、妙、」


青空文庫現代語化 Home リスト