岡本綺堂 『半七捕物帳』 「それからお前さんの家にお熊という女がいる…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「それから、あんたの家にお熊さんって女がいるって本当ですか?」
「はい。西の国から来たそうで、今年で19です。去年の9月に前の女中が急病で辞めちゃって、ちょうど代わりの女中がいない時に、よくここに質入れに来る徳三郎って小間物屋さんが、『ちょうどいい女がいるんだけど使わない?』って言うんで、ちょうどいいと思って雇ったんです。性格も悪くないし、人間もいいし、よく働いてくれる。だから、主人も俺たちも『いい女中を雇ったな』って喜んでます」
「こっちに親戚がいるとかって話ですか?」
「芝のほうの屋敷の足軽を頼って来たんだそうです。でも、大変申し訳ないんですけど、俺たちとしても困ってた時に徳さんが全部引き受けてくれるって言ったんで、詳しく調べたりせずに……」
「そのお熊さん、それからも特に変わった様子はないんですか?」
「特に変わったことはないですけど、あの婆さんにつけられた後から、表に出たがるのをすごく嫌がるようになって困ってます。でもそれは無理もないんで、大抵の用事は他の小僧に出させてます。本人も病気ってわけじゃないんで、家の中ではいつも通り働いてますよ。何かご用事なら今呼んできましょうか?」
「いや、呼ぶのはまずい」
「裏口に回って、そっと覗くわけにはいかないですか?」
「いいですよ。ちょうど夕方なんで、台所で働いてるはずだから。隣の路地から入ってください」

原文 (会話文抽出)

「それからお前さんの家にお熊という女がいるそうですね」
「はい。西国生まれだそうで、年は明けて十九でございます。ちょうど去年の九月、今までの奉公人が急病で暇をとりまして、出代り時でもないもんですから、差し当りその代りの女に困って居りますところへ、てまえ方へ質を置きにまいります徳三郎という小間物屋さんが、時にこんな女があるから使ってくれないかと申しますので、ちょうど幸いと存じて雇い入れましたような訳でございますが、人柄も悪くなし、人間も正直でよく働きます。で、これはよい奉公人を置きあてたと申して、主人を始めわたくし共も喜んで居ります」
「こっちに親戚でもあるんですかえ」
「なんでも芝の方の御屋敷の足軽を頼ってまいったのだそうでございます。と申しますと、まことに不念のようで恐れ入りますが、なにぶん手前どもでも困っている矢先でもあり、徳さんが万事をひき受けると申しますものですから、その上にくわしくも詮議いたしませんで……」
「その後、そのお熊になにも変った様子はないんですね」
「別に変ったこともございませんが、一度その婆さんにあとを尾けられてから、表へ出るのをひどく忌がるので困ります。もっともそれは無理もありませんので、大抵の使いにはほかの小僧を出して居りますが、当人も別に病気というわけでもございませんから、家の内ではいつもの通りに働いて居ります。御用があるなら唯今呼んでまいりましょうか」
「いや、呼んじゃあまずい」
「うら口へまわって、そっとのぞくわけにゃあ行きませんか」
「よろしゅうございます。ちょうど夕方でございますから、台所ではたらいて居ります筈です。どうぞ隣りの露路からおはいりください」


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