岡本綺堂 『半七捕物帳』 「ところで、親分。ついでに妙なことを聞き出…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「ところで、親分。ついでに変わったことも聞いてきました」
「やっぱりその婆さん関係の話っすか?5、6日前のお昼頃のことらしいんですけど、浅草の馬道にある河内屋っていう質屋でね。お熊っていう女中が外に用事で行ったんだけど、真っ青になって帰ってきて、自分の部屋に鍵かけてピシャッと閉め切って、震えてたんですって。何か変だなと思ってたら、裏口に怪しい婆さんが来て覗いてるって噂が広まって、番頭とか小僧が行ってみたら、薄気味悪い婆さんが立ってたんだって。変だとは思いつつも昼間のことだから大声で怒鳴りつけたら、婆さんは怖い目でジッとこっちを見てただけで、大人しくどこかに行っちゃったとか。そんで、その晩から番頭と小僧が急に熱出して震え出し、医者に見せても原因がわからなかったんだって。相手が変な婆さんだったもんだから、例の甘酒婆の仕業だって噂になって、家じゅうビビりまくってるそうです。その時出ていったのは番頭2人と小僧1人だったんだけど、番頭1人は運よく無事だったみたいで、他の2人が犠牲になったらしいんですよ。でも、不思議なのは、婆さんは夜だけじゃなくて昼間もウロついてたってことなんですよね。だから近所の人たちもビビってるんです」
「そんで、そのお熊って女はどうなった?大丈夫だったの?」
「その女中は何も起こってなかったそうです。用事から帰ってくるときに、ずっと怪しい婆さんが付いてきてたみたいで、怖くなって逃げ帰ってきたんだって」
「お前はその女を見たのか?」
「見てないです。なんかの小間物屋から河内屋に奉公に出た女で、19、20歳くらいらしいけど、台所で働くのはもったいないくらい綺麗な顔してるんだって」
「その小間物屋は誰なんだ?」
「その小間物屋は俺も知ってますよ」
「徳って奴で、徳三郎か徳兵衛か知らないけど、まだ22、3歳の色白の野郎です。遊び好きで江戸に居られなくなって小間物行商してたんですけど、去年の7、8月くらいからまた江戸に戻ってきて、どこかに部屋を借りて相変わらず小間物担いでるみたいですよ」
「そうか。分かった。じゃあ、お前はその徳って奴の家を調べて連れてこい。俺は馬道の質屋で詳しく調べるから」
「俺も行きますか?」
「そうだなぁ。また何かあるかもしれないし。一緒に行ってくれ」
「了解っす」

原文 (会話文抽出)

「ところで、親分。ついでに妙なことを聞き出して来たんですがね」
「やっぱりその婆に係り合いのあることなんですが、なんでも五、六日まえの午過ぎだそうです。浅草の馬道に河内屋という質屋があります。そこの女中のお熊というのが近所へ使いに出ると、やがて真っ蒼になって内へかけ込んで来て、自分の三畳の部屋をぴっしゃり閉め切ってしまって、小さくなって竦んでいたそうです。なんだか変だと思っていると、誰が見つけたか知らねえが、河内屋の裏口に変な婆が来てそっと内をのぞいているというので、番頭や小僧が行って見ると、なるほど忌に影のうすい婆が突っ立っている。変だとは思ったが、真っ昼間のことだから大きな声で呶鳴り付けると、婆は忌な眼をしてこっちをじっと見たばかりで、素直に何処へか行ってしまった。行ってしまったのはいいが、その晩から番頭ひとりと小僧一人が瘧疾のように急にふるえ出して、熱が高くなる、蒲団の上をのたくる。医者にみせても容態はわからない。相手が変な婆であったもんだから、それもきっと例のあま酒婆だったということで、家じゅうのものは竦毛をふるっているそうです。その時に出てみたのは、番頭ふたりと小僧一人だったんですが、ひとりの番頭だけは運よく助かったとみえて、今になんにも祟りがなく、ほかの二人が人身御供にあがった訳なんですが、妙なこともあるじゃありませんか。してみると、その婆は夜ばかりでなく、昼間でもそこらにうろついているに相違ねえというんで、近所の者もみんな蒼くなっているんですよ」
「そうして、その熊という女はどうした。それには別条ねえのか」
「その女中にはなんにも変ったことはないそうです。なんでも使いに行って帰ってくると、その途中から変な婆がつけて来て、薄っ気味悪くて堪まらねえので、一生懸命に逃げて来たんだということです」
「おめえはその女を見たのか」
「見ません。なんでも河内屋へ出入りの小間物屋の世話で住み込んだ女で、年は十九か二十歳ぐらいだが、台所働きにはちっと惜しいような代物だそうですよ」
「その小間物屋というのは何という奴だ」
「その小間物屋はわっしが識っています」
「徳という野郎で、徳三郎か徳兵衛か知りませんが、まだ二十二三の生っ白い奴です。道楽者で江戸にもいられねえんで、小間物をかついで旅あきないをしていたんですが、去年の七、八月ごろから江戸へまた舞い戻って来て、どこかの二階借りをして相変らず小間物の荷を担ぎあるいているようです」
「そうか。よし、判った。じゃあ、おめえはその徳という野郎の居どこをさがして引っ張って来てくれ。おれはその馬道の質屋へ行って、もう少し種を洗ってくるから」
「わっしも行きましょうか」
「そうよ。又どんな用がねえとも限らねえ。一緒にあゆんでくれ」
「ようがす」


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