GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「今は秋で、今日は雨降ってるじゃん。怪談にぴったりのシチュエーションなんだけど、いいネタがないんだよなぁ。昔は怪談が多かったけどさ。俺もいろいろ聞いたけど、俺が経験した仕事がらみの怪談ってのは少ないんだよねぇ。前に話した津の国屋とかも、最後らへんはアレだったし」
「でも、あの話面白かったよ」
「あんな話はないですかぁ」
「うーん」
「あれとはちょっと違うけど、変なのがあるんだよ。俺もよくわかんないけど」
「どんな話?」
「ちょっと待ってよ。せっかちなヤツだな」
「雨すごいですね」
「安政四年の正月から三月にかけて、変なウワサが広まったらしいんすよ。毎晩『逢魔が時』になると、お婆さんが甘酒売りに出るんですって。女だから天秤は持ってないんだって。汚い風呂敷に包んだ箱を肩にかけて、固めた甘酒を売ってるわけ。それだけなら別に不思議じゃないんだけど、お婆さんは昼には出てこないんだ。日が暮れて、寺の鐘が六つ鳴ると、それを合図みたいにフラフラと出てくるんだって。それだけならまだいいんだけど、うっかりお婆さんの近くに行くと、絶対病気になっちゃうんだって。軽いのは7〜10日間寝込むらしい。ひどいのは死んじゃうんだって。マジ怖ぇ話じゃん。そのウワサがどんどん広まって、ビビりな奴は逢魔が時を過ぎたら銭湯にも行かなくなったらしいよ。今の時代なら『そんなバカな』って思うでしょ?でも昔の奴らはみんなマジメだから、そういうウワサを聞くとビビり散らすんだよ。しかも、証拠もあるんだって。お婆さんに会って病気になった人が何人もいるらしいし。これどう思う?」
原文 (会話文抽出)
「また怪談ですかえ」
「時候は秋で、今夜は雨がふる。まったくあつらえ向きに出来ているんですが、こっちにどうもあつらえむきの種がないんですよ。なるほど、今とちがって江戸時代には怪談がたくさんありました。わたくしもいろいろの話をきいていますが、商売の方で手がけた事件に怪談というのは少ないものです。いつかお話した津の国屋だって、大詰へ行くとあれです」
「しかし、あの話は面白うござんしたよ」
「あんな話はありませんか」
「さあ」
「あれとは又、すこし行き方が違いますがね。こんな変な話がありましたよ。これはわたくしにも本当のことはよく判らないんですがね」
「それはどんなことでした」
「まあ、待ってください。あなたはどうも気がみじかい」
「よく降りますね」
「安政四年の正月から三月にかけて可怪なことを云い触らすものが出来たんです。それはどういう事件かというと、毎日暮れ六ツ――俗にいう『逢魔が時』の刻限から、ひとりの婆さんが甘酒を売りに出る。女のことですから天秤をかつぐのじゃありません。きたない風呂敷に包んだ箱を肩に引っかけて、あま酒の固練りと云って売りあるく。それだけならば別に不思議はないんですが、この婆さんは決して昼は出て来ない。いつでも日が暮れて、寺々のゆう六ツの鐘が鳴り出すと、丁度それを合図のようにどこからかふらふらと出て来る。いや、それだけならまだ不思議という段には至らないんですが、うっかりその婆さんのそばへ寄ると、きっと病人になって、軽いので七日や十日は寝る。ひどいのは死んでしまう。実におそろしい話です。その噂がそれからそれへと伝わって、気の弱いものは逢魔が時を過ぎると銭湯へも行かないという始末。今日の人達はそんな馬鹿な事があるものかと一と口に云ってしまうでしょうが、その頃の人間はみんな正直ですから、そんな噂を聞くと竦毛をふるって怖がります。しかも論より証拠、その婆さんに出逢って煩いついた者が幾人もあるんだから仕方がありません。あなた方はそれをどう思います」