菊池寛 『仇討禁止令』 「それで、成田頼母の俗論が、とうとう勝利を…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 菊池寛 『仇討禁止令』

現代語化

「それで、結局成田頼母のバカな意見が通っちゃったの?」
「ええ、藤沢恒太郎殿が正論を説いてもダメでした」
「土佐軍に抵抗するって?天皇の旗を奉じてる土佐軍に。負けるに決まってるじゃないか。土佐は、スナイドル銃を200挺も持ってるんだって?」
「賊軍になって、ボコボコにやられる。その上、王政復古になれば高松藩はお取り潰し。大義名分を間違える上に、藩主を滅ぼす――そんなバカなことをしてられるか」
「すぐ成田邸に行こう。あの頑固ジジイを説得してこい」
「やめとけって」
「あのジジイが、俺たち若造の意見なんか聞くわけないよ。もう藩の会議で決まったんだから、今さら騒いだって、あのジジイ変えないよ」
「じゃ、あんたは、高松藩が平気で朝敵になるのを黙って見てるつもりか?」
「そうじゃないんだよ。俺にも考えがあるんだ。でも、それは俺たちが命を懸けた非常手段だ」
「非常手段、いいね!教えてくれ」
「天野さん、申し訳ないけどちょっと席を外してくれないか」
「なんで?」
「別にあんたに隠したいわけじゃないんだけど、あんたは成田家と親しいんだろ。成田殿に対して何か企てるのに、あんたがいたら、俺たちもしづらいし、あんたもつらいだろう。今日は無理を言って席を外してくれないか……」
「新一郎、若いけど、大義のためには親も殺すつもりだ。いつも仲間として付き合ってたのに、いざとなったら仲間はずれって、ひどすぎるだろ。絶対に席なんか外さない」
「そうか。その心意気、最近すごいと思うよ。じゃあ言うよ。みんな近くに寄って」
「藩が決めた今、状況を覆すには、非常手段に出るしかない。明日の出陣を阻止するには、今夜中に成田頼母を倒すしかないと思うんだけど、みんなはどう思う?」
「同意!大賛成!」
「成田殿に、個人として恨みはない。頑固者だけど、藩主には忠実な人だ。でも、藩の名誉を守って、間違った道を歩かせないようにするためには、やむを得ない犠牲だと思う。成田殿一人を倒せば、後には腹のある奴なんて少ない。明日の出陣も、大将の成田殿がいなくなれば、迷って中止になるのは目に見えてる。その間に、天皇を敬う思想を吹聴して、藩の考え方をがらりと変えるのは、案外簡単だと思うよ。慶応二年から俺たちが集まって勤王の志を語り合ったのも、こんなときの役に立つためだと思う。成田殿を倒すことは、朝廷のためにもなり、藩主を救うことにもなる。みんな異論はないと思う」
「異論なし」
「異論なし」
「同意」
「異論がなければ、次は方法だ。成田頼母は、竹内流小具足の達人らしいよ。居合で戦うなら、家中で一番って聞いてる。だから、討手は、腕に覚えのある奴らにお願いしたい」
「わかった!」
「でも、大勢で行って城下町を騒がすのは、敵が迫ってる今じゃマズい。討手はまずは3人でいいと思う」
「腕前はヘタクソだけど、ぜひ入れてください」
「私も入れてくれ!」

原文 (会話文抽出)

「それで、成田頼母の俗論が、とうとう勝利を占めたというのか」
「左様、藤沢恒太郎殿が順逆を説いたが、だめでござった」
「土佐兵に抵抗するというのか、錦旗を奉じている土佐兵に。負けるのに決っているじゃないか。土佐は、スナイドル銃を二百挺も持っているというじゃないか」
「賊軍になった上に、散々やっつけられる。その上、王政復古となれば高松藩お取り潰し。大義名分を誤った上に、主家を亡す――そんな暴挙を我々が見ておられるか」
「早速、成田邸へ押しかけて、あの頑固爺を説得しよう」
「いや、だめだめ」
「あの老人は、我々軽輩の者の説などを入れるものか。すでに、藩の会議で決したものを、今更どんなに騒ごうと、あの老人が変えるものか」
「然らば、貴殿は、みすみす一藩が朝敵になるのを、見過すのか」
「いや、そうではござらぬ。拙者にも、存じ寄りがある。しかし、それは、我々が一命を賭しての非常手段じゃ」
「非常手段、結構! お話しなされ」
「天野氏、貴殿にははなはだ済まぬが、ちょっと御中座を願えまいか」
「何故?」
「いや、貴殿に隔意あってのことではないが、貴殿は成田家とは御別懇の間柄じゃ。成田殿に対してことを謀る場合、貴殿がいては、我々も心苦しいし、貴殿も心苦しかろう。今日だけは、枉げて御中座が願いたいが……」
「新一郎、若年ではござるが、大義のためには親を滅するつもりじゃ。平生同志として御交際を願っておいて、有事の秋に仲間はずれにされるなど、心外千万でござる。中座など毛頭思い寄らぬ」
「左様か。お志のほど、近頃神妙に存ずる。それならば、申し上げる。各々方近うお寄り下されい」
「藩論が決った今、狂瀾を既倒にかえすは、非常手段に出るほかは、ござらぬ。明日の出兵を差し止める道は、今夜中に成田頼母を倒すよりほか、道はないと存ずるが、方々の御意見は?」
「ごもっとも、大賛成!」
「成田殿に、個人として、我々はなんの恨みもない。頑固ではあるが、主家に対しては忠義一途の人じゃ。が、一藩の名分を正し、順逆を誤らしめないためには、止むを得ない犠牲だと思う。成田殿一人を倒せば、後には腹のあるやつは少ない。明日の出陣も、総指揮の成田殿が亡くなれば、躊躇逡巡して沙汰止みになるのは、目にみえるようだった。その間に、尊王の主旨を吹聴して、藩論を一変させることは、案外容易かと存ずる。慶応二年以来、我々同志が会合して、勤王の志を語り合ったのも、こういう時の御奉公をするためだと思う。成田殿を倒すことは、天朝のおためにもなり、主家を救うことにもなる。各々方も、御異存はないと思う」
「異議なし」
「異議なし」
「同感」
「御異議ないとあらば、方法手段じゃ。ご存じの通り、成田頼母は、竹内流小具足の名人じゃ。小太刀を取っての室内の働きは家中無双と思わねばならぬ。従って、我々の中から、討手に向う人々は、腕に覚えの方々にお願いせねばならぬ」
「左様!」
「しかし、多人数押しかけて御城下を騒がすことは、外敵を控えての今、慎まねばならぬ。討手はまず三人でよかろうと思う」
「腕前は未熟であるが、拙者はぜひお加え下されい」
「拙者も、是非!」


青空文庫現代語化 Home リスト