GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 菊池寛 『仇討禁止令』
現代語化
「ごもっとも!」
「確かに」
「同感です!」
「ごもっともではありますが……」
「すでに、有栖川宮が天皇の旗を掲げて東海道を下りてきたという情報も入っています。王政復古は、この国の流れです。将軍家も朝廷に恭順するおつもりだという噂もあります。この際、将軍家の意思を確認せずに、官軍である土佐軍と戦うのはどうでしょうか」
「将軍家に恭順するおつもりがあるなんて、とんでもないことを言うなよ。鳥羽伏見で負けたのは、不意打ちされただけだ。将軍様が江戸に戻ってから改めて兵を集め直せば、薩長土なんざ屁でもない。もし、今土佐軍に負けて降参なんかしたら、徳川家がまた勢いを取り戻したときに、高松藩はつぶされるだろう。それより、おれたちが命をかけて土佐軍を撃退し、徳川家が長く続くようにすれば、藩のためにもなるし、先祖からの恩に報いることになるだろ。土佐軍のあの臆病者どもは城に立てこもって震えてればいいんだ。この頼母は、真っ先に戦いを挑んでやるよ。降参なんてまっぴらだ」
「道理だ!」
「まさに、おっしゃる通り!」
「ごもっともその通り」
「成田殿のお言葉ですが、徳川将軍家として、これまでに天皇の旗に逆らったことはありません。ましてや、ご宗家の水戸殿は、義公様以来、昔から天皇崇拝の志が篤く、烈公様もいろんな形で朝敵の討伐に協力されてきたことは、世間でよく知られています。それなのに、水戸殿と同じ徳川家の分家であるはずの当家が、この大事なときに間違った道を選んで朝敵になるのは、残念なことです」
「何が間違った道だ。そういう言い方は、薩長土が自分の利益のために使う言葉だ。徳川将軍家から四国の守護として高い給料をもらっている当藩が、将軍家が危ないときに力を貸さないでどうする。もう議論の余地はないよ。この頼母の言うことに同意するなら、手を挙げてくれ。そうだな、両手を挙げてくれ」
原文 (会話文抽出)
「薩長土が、なんじゃ、皆幼帝をさしはさんで、己れ天下の権を取り、あわよくば徳川に代ろうという腹ではないか、虎の威を借りて、私欲を欲しいままにしようという狐どもじゃ。そういう連中の振りかざす大義名分に恐じ怖れて、徳川御宗家を見捨てるという法があろうか。御先祖頼重公が高松に封ぜられたのは、こういう時のために、四国を踏み固めようという将軍家の思し召しではないか。我々が祖先以来、高禄を頂いて、安閑と妻子を養ってこられたのは、こういう時のために、一命を捨てて、将軍家へ御奉公するためではなかったのか。こんな時に一命を捨てなければ、我々は先祖以来、禄盗人であったということになるではないか」
「左様、左様!」
「ごもっとも」
「御同感!」
「左様では、ござりましょうが……」
「すでに、有栖川宮が錦旗を奉じて、東海道をお下りになっているという確報も参っております。王政復古は、天下の大勢でござります。将軍家におかれても、朝廷へ御帰順の思し召しがあるという噂もござりまする。この際、将軍家の御意向も確かめないで、官軍である土佐兵と戦いますのはいかがなものでござりましょうか」
「将軍家に、帰順の思し召しあるなどと、奇怪なことを申されるなよ。鳥羽伏見には敗れたが、あれはいわば不意に仕掛けられた戦いじゃ、将軍家が江戸へ御帰城の上、改めて天下の兵を募られたら、薩長土など一溜りもあるものではない。もし、今土佐兵に一矢を報いず、降参などして、もし再び徳川家お盛んの世とならば、わが高松藩は、お取り潰しになるほかはないではないか。それよりも、われわれが身命を賭して土佐兵を撃ち退け、徳川家長久の基を成せば、お家繁盛のためにもなり、御先祖以来の御鴻恩に報いることにもなるではないか。土佐兵の恐い臆病者どもは、城に籠って震えているがよい。この頼母は、真っ先かけて一戦を試みるつもりじゃ。帰順、降参などとは思いも寄らぬことじゃ」
「御道理!」
「まさに、お説の通り!」
「ごもっとも千万」
「成田殿のお言葉ではござりまするが、徳川御宗家におかせられましても、いまだかつて錦旗に対しお手向いしたことは一度もござりませぬ。まして、御本家水戸殿においては、義公様以来、夙に尊王のお志深く、烈公様にも、いろいろ王事に尽されもしたことは、世間周知のことでござります。しかるに、水戸殿とは同系同枝とも申すべき当家が、かかる大切の時に順逆の分を誤り、朝敵になりますことは、嘆かわしいことではないかと存じまする」
「何が順逆じゃ。そういう言い分は、薩長土などが私利を計るときに使う言葉じゃ。徳川将軍家より、四国の探題として大録を頂いている当藩が、将軍家が危急の場合に一働きしないで、何とするか。もはや問答無益じゃ。この頼母の申すことに御同意の方々は、両手を挙げて下され。よろしいか、両手をお挙げ下さるのじゃ」