GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「このごろの流行りで仕方ない」
「そこから吉祥寺裏に行くと、親分は留守だったけど、長助って若い奴が鉢巻してんの。つかまえて聞いてみると、どこかにバクチか何かに行って、昨日の夜中の4時ごろに富士の裏から帰ってくると、例の変な声で呼ばれたんだって。おうい、おういじゃねえんだって。女みたいな声で、もしもしって呼んだんだって。本当に女の声かって聞くと、どうも女みたいだったって言うんだけど……。野郎、なんか怪しい感じで、はっきりしたことは言わないんだ。で、何者か言いながら近づいて行くと、石ころみたいなもので額をグシャって殴られて、しばらく気を失っちゃって、詳しいことは自分で覚えてねえって言うだけなんだよ。ムカついたからちょっと脅かしてやったんだけど、意外にビビってる奴で、本当に嘘は言ってないから許してくれって、真っ青な顔して泣くばかり言うから、まあいい加減にして引き上げたんだ」
「そうか」
「その長助って奴も、ただ者じゃないらしいけど、そんなにビビってるんなら後回しでいいだろ。俺は岡崎屋の嫁の実家に行って調べてきたけど、岡崎屋の伊太郎は師匠の女房と浮気してて、それが原因で嫁のおそよが離婚したんだ。おそよは旦那に未練があるみたいで、可哀想に泣いてたよ」
「すると、伊太郎が師匠を殺したのかな?」
「そうだろうな。でも、伊太郎一人じゃなさそうだな。その晩一緒に遊びに行った池田の喜平次って奴も手伝ったんだろう」
「そいつも伊太郎に抱き込まれたのか?」
「池田の家は金欠だって噂だよ。それに厄介者の養子だ。24、25歳まで親父の飯を食ってるようじゃ、小遣いも少ないだろう。たぶん金に目が眩んで、師匠殺しの手伝いをしちまったんだろうな」
「ひどい奴らだ」
「世の中悪くなったな」
「殺人にもいろいろあるけど、親殺しはもちろん、主人殺しや師匠殺しってのは重罪だ。どんどん話が大きくなってきたな。でも、ズウフラの話はどうなるんだ?」
「ズウフラで師匠をおびき寄せたのかな?」
「そうすると、もう一人の仲間がいるってことか」
「まあ、大勢の中で抱き込まれた奴がいる可能性もあるけど……。世の中が悪くなったとはいえ、師匠殺しの味方をする奴がそんなにたくさんいるとは思えないな。ちょっと考えものだ。そもそもこの江戸中にズウフラを持ってる奴なんてそういないだろうから、その持ち主がわかれば解決するんだけど……」
「ズウフラの話はまあ別として、とりあえずこの情報をお寺や神社に届け出て、岡崎屋の伊太郎を逮捕してもらうことにしようじゃないか」
「でも、まだ確実な証拠はないぞ。他の事件と違って、これは重罪なんだ。むやみに動けるもんじゃない。もうちょっと考えよう」
原文 (会話文抽出)
「とうとうぱら付いて来ましたね」
「この頃の癖で仕方がねえ」
「あれから吉祥寺裏へ行くと、親方は留守でしたが、長助という若い奴が鉢巻をしていましたよ。取っ捉まえて訊いてみると、どっかへ小博奕か何かに行って、ゆうべの四ツ過ぎころに富士裏を帰って来ると、例の声で呼ばれたそうです。おうい、おういじゃあねえ。女のような声で、もしもしと呼んだと云うのです。確かに女の声かと念を押すと、どうも女のようだったと云うのですが……。野郎、何だかおどおどしていて、どうもはっきりした事を云わねえのです。なにしろ、誰だと云いながら向って行くと、石のようなもので額をがんとやられて、暫くは気が遠くなってしまったと云うだけで、詳しいことは自分でも覚えていねえと云うのです。小焦れってえから、ちっと嚇かしてやったんですが、案外意気地のねえ野郎で、まったく嘘いつわりは云いませんからどうか勘弁してくれと、真っ蒼な顔をして泣かねえばかりに云うので、まあいい加減にして引き揚げて来ました」
「そうか」
「その長助という野郎も、唯は置かれねえ奴らしいが、そんな意気地なしならあと廻しでよかろう。おれは岡崎屋の嫁の里へ行って調べて来たが、岡崎屋の伊太郎は師匠の女房と不義を働いていて、それがために嫁のおそよは離縁になったのだ。おそよは亭主に未練があると見えて、可哀そうに泣いていたよ」
「すると、伊太郎が師匠を殺ったのかね」
「そうだろうな。だが、伊太郎一人の仕業じゃああるめえ。その晩一緒に出て行ったという池田の舎……喜平次という奴も手伝ったのだろう」
「そいつも伊太郎に抱き込まれたのかね」
「池田の屋敷はひどく逼迫していると云うじゃあねえか。おまけに厄介者の舎坊だ。二十四や五になるまで実家の冷飯を食っているようじゃあ、小遣いだって楽じゃあねえ。おそらく慾に眼が眩んで師匠殺しの手伝いをしたのだろうな」
「ひどい奴らだ」
「どうも世が悪くなったな」
「人殺しもいろいろあるが、親殺しは勿論、主殺しや師匠殺しと来ちゃあ重罪だ。だんだんに事が大きくなって来た。それにしても、ズウフラの一件はどういうのかな」
「ズウフラで師匠を誘い出したのじゃあねえかね」
「そうすると、もう一人の同類が無けりゃあならねえ」
「もっとも大勢の中にゃあ抱き込まれる奴が無いとも限らねえが……。いかに世が悪くなったと云っても、師匠殺しの味方をする奴がそんなに幾人もあるだろうか。こりゃあ少し考げえものだ。一体この江戸じゅうにズウフラなんぞを持っている奴がたくさんある筈がねえから、その持ち主さえ判ればいいのだか……」
「ズウフラの方はまあ別として、ともかくもこれだけのことを寺社の方へ届けて、岡崎屋の伊太郎を引き挙げてしまおうじゃありませんか」
「だが、まだ確かな証拠はねえ。ほかの事と違って重罪だ。むやみなことが出来るものか。まあ、もうちっと考えよう」