GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「大体わかりました」
「駿河屋の女隠居には男がいる。松が言う通り、女中は新参者で何も知らないみたいだけど、俺は近所の駕籠屋の若い者から聞き出したぞ」
「その男ってどこに住んでるの?」
「葺屋町の裏に住んでて、音造って名前の奴だ。小遣い稼ぎなんかをして、ぶらぶらしてるケチなやつだよ」
「違うだろう」
「違いますか?」
「いや、違うってこともないけど……」
「それで、その音造って奴は杉の森新道に出入りしてるのか?」
「そんな奴が出入りしちゃあ、すぐ近所の目に付くから、深川の八幡前の音造の叔母が小さな雑貨屋を営んでる。そこの2階を逢い場所にしてたみたいだ。音造は27、8で、いやにヒョロヒョロした気取った奴だよ。あんまり相手が釣り合わなさすぎて、俺も最初は怪しんだんだけど、いろいろ調べてみると、どうも本当らしいんだ」
「駿河屋の若主人は全く色気がないのか?」
「いや、これにも女が絡んでるみたいだ。両国の連れ込み宿にいるお米って女で、これが怪しいって噂で、時々駿河屋の店を覗きに来たりするらしい。俺も念のために両国に行って、飲みたくない茶を飲んで来たけど、お米って女は若作りしててもう23、4だろう。確か若主人よりも年上だよ。ねえ、親分。照降町の駿河屋ってのは、世間で名の知れてる店なのに、その隠居の相手はごろつき、主人の相手は連れ込み宿の女、揃いも揃っておかしな相手じゃないか」
「それだからいろいろ間違いが起こるんだ」
「それで、その音造って奴はどうした?」
「どうせ金目当ての色恋沙汰だから、相手の隠居があんなことになっちまっちゃあ、金の蔓も切れたってわけだ。それでもまだ金に執着があるみたいで、隠居の通夜の晩に、線香の箱かなんかを持って来て、裏口から番頭の吉兵衛を呼び出して、これを仏前に供えてくれって言う。番頭もそのわけは薄々わかってて、そんなもんもらってたらあとが面倒だってんで、せっかくだけど受け取れないって言う。その押し問答が若主人の耳に入ると、信次郎は奥から出て来て、おまえからそんなものをもらう覚えはないって、すごい勢いで怒鳴りつけたんだって」
「すごい勢いで怒鳴りつけたのか?」
「主人の勢いがすごすぎて、音造もさすがに気圧されたのか、それとも大勢がいる中で喧嘩しちゃあ自分の損だって思ったのか、主人に頭から怒鳴りつけられて、尻尾を巻いてこそこそと逃げ帰ったそうだ。どっちにしても、根性のない奴だね」
原文 (会話文抽出)
「どうだ。判ったか」
「大抵はわかりました」
「駿河屋の女隠居には男があります。松の云う通り、女中は新参でなんにも知らねえようですが、わっしは近所の駕籠屋の若い者から聞き出しました」
「その男はどこの奴だ」
「葺屋町の裏に住んでいる音造という奴で、小博奕なんぞを打って、ごろ付いているけちな野郎ですよ」
「違うだろう」
「違いますかえ」
「いや、違うとも限らねえが……」
「そこで、その音造という奴は杉の森新道へ出這入りするのか」
「そんな奴が出這入りをしちゃあ、すぐに近所の眼に付くから、深川の八幡前の音造の叔母というのが小さい荒物屋をしている。そこの二階を出逢い所としていたようです。音造は二十七八で、いやにぎすぎすした気障な野郎ですよ。あんまり相手が掛け離れているので、わっしも最初はおかしく思ったのですが、だんだん調べてみると、どうも本当らしいのです」
「駿河屋の若主人はまったく色気なしか」
「いや、これにも女の係り合いがあるようです。両国の列び茶屋にいるお米という女、これがおかしいという噂で、時々に駿河屋の店をのぞきに来たりするそうです。わっしも念のために両国へまわって、飲みたくもねえ茶を飲んで来ましたが、そのお米という女は若粧りにしているが、もう二十三四でしょう。たしか若主人よりも年上ですよ。ねえ、親分。照降町の駿河屋といえば、世間に名の通っている店だのに、その隠居の相手はごろつき、主人の相手は列び茶屋の女、揃いも揃って相手が悪いじゃあありませんか」
「それだからいろいろの間違いも起こるのだ」
「そこで、その音造という奴はどうした」
「どうで慾得でかかった色事でしょうから、相手の隠居があんな事になってしまっちゃあ、金の蔓も切れたというものです。それでもまだ金に未練があると見えて、隠居の通夜の晩に、線香の箱かなんか持って来て、裏口から番頭の吉兵衛をよび出して、これを仏前に供えてくれと云う。番頭もそのわけを薄々知っているので、そんなものを貰ってはあとが面倒だと思って、折角だが受け取れないと云う。その押し問答が若主人の耳にはいると、信次郎は奥から出て来て、おまえからそんな物を貰う覚えはないと、激しい権幕で呶鳴り付けたそうです」
「激しい権幕で呶鳴り付けたか」
「主人の勢いがあんまり激しいので、音造の野郎もさすがに気を呑まれたのか、それとも大勢がごたごたしている所で喧嘩をしちゃあ自分の損だと思ったのか、主人にあたまから呶鳴り付けられて、尻尾をまいてこそこそと逃げて帰ったそうです。どっちにしても、意気地のある奴じゃありませんね」