岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お前はゆうべ此の寺中に泊まったのか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「「お前は昨日この寺に泊まったのか?」
「いいえ、自分の寺に帰りました」
「今日の朝7時過ぎに寺を出て、ここへ忍び込んできた。夜中に外を歩いていると怪しまれるので、夜明け頃なら何とか言い訳できると考えたんです」
「盗んだ小判をなぜすぐに持って帰らなかったんだ?」
「小判と二朱銀を懐に入れて、奉納所を出たら、まだ誰も起きてなくて、辺りは静かでした。私は安心して夜叉神堂の前まで来て、かぶってる鬼の面を外そうとしたら、この時期の生暖かい陽気で顔も首筋も汗びっしょりになってるんです。その汗が張子の面に染みて、私の顔にべったりと張り付いたようになって、簡単に取れないんです。昔の肉付き面を思い出して、急にぞっとしました。嫁を脅かしただけでも、面が取れなくなった例もあります。まして仏様への奉納物を壊して金品を盗んだら、神仏の祟りも怖いです。もしかしたら夜叉神の怒りでお面が取れなくなるんじゃないかって思うと、私は全身に冷たい汗が流れてきました」
「せいぜい胡粉を塗った張子の面なんだから、力づくで引っ張れば簡単に取れそうなものなのに、私にはそれができませんでした。それで夜叉神の前で頭を下げて、私は心から懺悔しました。そして、盗んだ金品を元の場所に戻そうと思って、しばらく祈っていると、不思議と面が取れました。やれ良かったと喜んで、再び奉納所の方に戻ろうとすると、この頃は夜明けが早くなってるのと、参拝期間中は特に早起きしてるから、寺中ではもう雨戸を開けるような音が聞こえます。私は急に怖気づいて、もし見つかったら大変だと思って、奉納所には戻らず、懐の小判の扱いに困りました。むやみにその辺に捨てるわけにもいかなかったので、その場しのぎに小判5枚を面箱に押し込みました。こうしておけば、夜叉神の力で何とか元に戻る方法があるかもしれないと思ったんです。一度かぶった面は、自分の戒めのために持っておこうと思って、懐に入れて帰りました」

原文 (会話文抽出)

「お前はゆうべ此の寺中に泊まったのか」
「いいえ、自分の寺へ帰りました」
「けさの七ツ過ぎに寺をぬけ出して、ここへ忍んで来ました。夜なかに往来をあるいていると、人に怪しまれる、暁け方ならば何とか云いわけが出来ると思ったからです」
「盗んだ小判をなぜすぐに持って帰らなかったのだ」
「小判と二朱銀を袂に忍ばせて、奉納小屋を出ますと、まだ誰も起きていないので、あたりはひっそりしていました。わたくしは安心して夜叉神堂の前まで来まして、かぶっている鬼の面を取ろうとしますと、この頃の生暖かい陽気で顔も首筋も汗びっしょりになっています。その汗が張子の面に滲んで、わたくしの顔にべったりと貼り着いたようになって、容易に取れないのでございます。わたくしは昔の肉付き面を思い出して、俄かにぞっとしました。嫁を嚇かしてさえも、面が離れない例もある。まして仏前の奉納物を毀して金銀を奪い取っては、神仏の咎めも恐ろしい。あるいは夜叉神のお怒りで、この鬼の面がとれなくなるのでは無いかと思うと、わたくしはいよいよ総身にひや汗が流れました」
「多寡が胡粉を塗った張子の面ですから、力まかせに引きめくれば造作もなしに取れそうなものですが、それがわたくしには出来ませんでした。そこで夜叉神の前に頭をさげて、わたくしは心から懺悔をいたしました。そして、盗んだ金銀を元のところへ戻しに参ろうと存じまして、暫く祈念いたして居りますと、不思議にその面が取れました。やれ有難やと喜んで、再び奉納小屋の方へ引っ返そうと致しますと、この頃は夜の明けるのが早くなったのと、開帳中は特に早起きをいたしますので、寺中ではもう雨戸を繰るような音がきこえます。わたくしは急に気おくれがして、もし見付けられたら大変だと思いまして、小屋へは引っ返すのをやめましたが、袂の金の始末に困りました。むやみに其処らへ捨てて行くわけにも行かず、当座の思案で小判五枚を面の箱へ押し込みました。こうして置けば、夜叉神の功力で何とか元へかえる術もあろうかと思ったからでございます。一旦かぶった面は、自分が一生の戒めにするつもりで、袂に入れて帰りました」


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