岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お稽古の邪魔じゃあねえか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「お稽古の邪魔じゃないのか?」
「いいえ、誰も来ていません」
「もう構わない。遊びに来たわけじゃない」
「実は隣のお俊さんの一件なんですが、あの人のお前は深川の柘榴伊勢屋ですよね?」
「そうです」
「伊勢屋さんは頻繁に来るんですか?」
「時々来てるみたいでした」
「旦那さんの他に誰か来たりしませんか? 若い男とか……」
「はい、時々若い男の人が……。お侍みたいでした」
「泊まったりすることもありましたか?」
「泊まることはなかったようですが、いつも1人で来て、4時過ぎまで遊んでたみたいです。女中の話によると、どうも深川の人みたいでした」
「女中はなんていうんだね?」
「お直さんっていう、17、8歳の大人しい人でした。家もやはり深川で、大島町だとか言ってました」
「昨日引っ越す時に、お直さんもいましたか?」
「お直さんはいなかったみたいです。後で聞くと、もう前の日あたりに暇を取って、出て行ってしまったらしいとのことでした」
「そうすると、おとといの晩はお俊さん1人で寝てたわけだね?」
「そうかもしれません。夕方どこかに出て行って、夜遅くに帰ってきたようです。私はもう寝てて、よくは知りませんが、格子が開く音がしたので、その時に帰ってきたんだろうと思ってました」
「格子の開閉以外に、また出て行ったような様子はなかったかね?」
「さあ」
「さっきも言った通り、私はもう寝てたので、半分は夢うつつで、帰ってきたらしき様子は知ってたんですが、また出て行ったかどうかは覚えていません」
「そのお侍はお俊さんの愛人でしょう?」
「そうかもしれません」
「見たところ、粋で遊び好きっぽかった……」
「相撲取りで出入りしてるところはありませんでしたか?」
「伊勢屋の旦那さんがすごく贔屓にしてるらしくて、万力っていうお相撲さんが来てました」
「万力は1人で来ることもあったか?」
「1人で来たことはなさそうです。たいていは旦那さんと一緒みたいでした」
「いや、ありがとう。分からないことがあったらまた聞きに来るとして、今日はこれで帰ります。お役目の中、稽古所に来て邪魔して悪かった。これ、少しだけど白粉でも買ってきてください」

原文 (会話文抽出)

「お稽古の邪魔じゃあねえか」
「いいえ、誰も来ていやあしません」
「もう構わねえがいい。遊びに来たのじゃあねえ」
「実は隣りのお俊の一件だが、あの女の旦那は深川の柘榴伊勢屋だね」
「そうです」
「伊勢屋は始終来るのかえ」
「ちょいちょい見えるようでした」
「旦那のほかに誰か来やあしねえか。若い男でも……」
「ええ、時々に若い男の人が……。お武家さんのようでした」
「泊まって行くような事もあったかえ」
「泊まることは無かったようですが、いつも一人で来て、四ツ過ぎまで遊んでいたようです。女中の話では、なんでも深川の方の人だと云うことでした」
「女中はなんと云うのだね」
「女中はお直さんと云って、十七、八のおとなしい人でした。家はやっぱり深川で、大島町だとか云っていました」
「きのう引っ越しをする時に、お直もいたかえ」
「お直さんは見えなかったようです。あとで聞くと、もう前の日あたりに暇を取って、出て行ってしまったらしいと云うことでした」
「そうすると、おとといの晩はお俊ひとりで寝ていたわけだね」
「そうかも知れません。日の暮れる頃にどこへか出て行って、夜の更けた頃に帰って来たようです。わたくしはもう寝ていましたから、よくは存じませんが、格子をあける音がしましたから、その時に帰って来たのだろうと思っていました」
「格子をあけて帰って来て、また出て行ったような様子はなかったかね」
「さあ」
「今も申す通り、わたくしはもう寝ていましたので、半分は夢うつつで、帰って来たらしい様子は知っていましたが、また出て行ったかどうだか、そこまでは覚えて居りません」
「その武家というのはお俊の情人だろうね」
「そうかも知れません」
「見たところ、粋な道楽肌の人でしたから……」
「相撲取りで出這入りをする者はなかったかね」
「伊勢屋の旦那がたいそう御贔屓だそうで、万力というお相撲さんが来ることがありました」
「万力はひとりで来る事もあったかえ」
「ひとりで来たことは無いようです。大抵は旦那と一緒のようでした」
「いや、有難う。判らねえことがあったら、また訊きに来るとして、きょうはこれで帰るとしよう。御用とは云いながら、稽古所へ来て邪魔をして済まなかった。こりゃあ少しだが、白粉でも買ってくんねえ」


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